未来のステークホルダーは誰か、という質問に論理的に答えることはできません。ですから、誰を未来のステークホルダーに選ぶかは、あなたの意志なのです。問われるのは、想像力です。仕事などでまったく関係のない人を連れてきて、「あなたが、私の未来のステークホルダーです」ということを説得することを試みてみましょう。そのための練習方法があります。シンポジウムの会場で、近くに座った人と名刺交換するときに、「この人が未来のステークホルダーになるかも」と想像することです。
ソーシャルメディア分析の専門家で、書評アルファブロガーでもある橋本大也さんは、「フューチャーセンター・セッションの魅力は人選」、と言います。これまで大也さんには、何度もフューチャーセンター・セッションに参加いただきましたが、いつも彼自身が他の登壇ゲストとの対話を心から楽しんでいるのが分かります。大也さんはさらに、「未来人が集まり、未来ごっこをするのがフューチャーセンター。制度化してしまって、未来人ではない人が、フューチャーセンター部長みたいなかんじで仕事をするようになったらおしまい」、とフューチャーセンターのコモディティ化を危惧します。そして、「フューチャーセンターのファシリテーターは、スティーブジョブスのように、現実歪曲フィールドに参加者を巻き込む」、とフューチャーセンターの魅力を独特の言い回しで表現します。
未来人とは、自らの感性と価値観を信じ、今を生きている人だと思います。未来のことを夢想している人ではありません。現状の社会に依存するのではなく、自らの足で立って歩いている人、それゆえ他の人から見ればユニークな世界観で生きているように見えるのです。だから私は敬意を込めて、登壇ゲストの人たちを「エキスパート」ではなく、「トップランナー」と呼びます。
新たに関係性を作ることが、自己変革の起点になります。最初に、「未来のステークホルダーに対する意志」を持つところからすべてが始まります。社会善のテーマをポンと掲げることで、未来のステークホルダーとのつながりが生まれます。そこで共感が生まれ、新たな価値観の中で発想できるようになってきます。ある一定数以上の人たちが未来のステークホルダーとの関係をつなげると、組織全体の価値観に影響を与えます。未来のステークホルダーとの協業を通じて、組織の一人ひとりの行動がすっかり変わってしまうまでに、長い時間は必要ありません。ビジョンや戦略で人を動かすのは難しいですが、新しい人とのつながりは、一瞬にして人の行動を変えるのです。その結果、新たなビジネス・エコシステムが生まれます。
このプロセスを私は、ソーシャル・イノベーションと呼んでいます。