「運動神経がよくなくて野球もサッカーもできないし、走りの才能もないし……」柏原選手の口からは信じられない言葉が飛び出してきた。4回箱根の山を登って、4回とも区間賞をとった男の強さの秘密とは。
お正月の風物詩、箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)が人気スポーツとなって久しい。1月2日、3日の2日間にわたり、関東地区より選ばれた20チームが、往路5区、復路5区、計10区の217キロ余を競う。
箱根駅伝のファンである知人が、過去4年間のハイライト映像を編集していて、これを見る機会を得た。映像での主役は東洋大学のエース柏原竜二。柏原が受け持った区間は4年間を通じて往路5区。小田原~箱根・芦ノ湖間23キロ余、標高で864メートルもアップする。曲がりくねった難コースで、各チームのエース級が起用される。通称「山登り区間」である。
なにより「気」というものが伝わってくるランナーである。前を行くランナーに並びかけ、競り合い、ぐいと前に出て突き離す。あるいは、山道をものともせずに駆け上がっていく。スピードとパワーは天性のものであろうが、前に出る気持ちがぐいぐいと伝わってくるのである。
埼玉県川越市にある東洋大学・川越キャンパスに、卒業を間近にした柏原選手を訪ねた。
川越キャンパスには、陸上競技場、ラグビー場、室内体育館などの体育施設が並んでいる。ランニングコースもたっぷりある。近隣、杉林や農地も点在し、のどかな風情が残っている。
陸上部の寮となっている建物でインタビューした。箱根から数日たって右足首が痛み出し、静養中とのこと。ビッグレースが終わると、その反動で階段を上るのも嫌になるほど疲れが出る。レースにすべてを出し尽くすランナーの特性であろう。
激走を支えた「気」は仕舞い込まれ、静かな日々が訪れていた。寮暮らしでの楽しみ事はゲーム、アニメ、漫画本。漫画のお気に入りは、『GIANT KILL ING』や『夜桜四重奏』など。ごく普通のいま風の若者である。穏やかながらはっきりモノを言う若者でもあった。
箱根駅伝を中心に、4年間を振り返ってもらった。
柏原は福島県いわき市の出身。6人きょうだいで、兄4人と妹がいる。地元の小・中学校を経て、県立いわき総合高校に進む。陸上部に所属したが、目立つ選手ではなかった。貧血という持病もあった。3年時、全国都道府県対抗男子駅伝で1区の区間賞を獲得、誘われて東洋大に進む。