原発を再稼働しても「調整」には使えない

では、どう対処すべきなのだろう。

電力不足に対応するために、原子力発電所をもっと本格的に再稼働すべきだ、という声も上がる。だが、これは発電方法の「特性」を無視した「原発再稼働ありき」の意見だろう。原子力発電は大量の電力を発電できるが、稼働や休止をこまめに繰り返したり、発電量を調整したりすることには向かない。国も「ベースロード電源」と位置付けていて、安定的に一定量を発電するのに向いている。今、必要なのは「調整」に使える発電方法なので、いきなり原発という話ではない。

これまで原発を推進しようとする政治家などは、東日本大震災以降、「原発がないと電力不足に陥る」「原発の方がコストが安い」と主張してきたが、10年以上にわたってまともに原発が稼働しなくても本格的な電力不足にはならなかった。LNGの輸入代金の増大など火力のコストが上昇しているのは事実だが、原発で事故が起きた時の膨大なコストを考えれば、単純にコスト比較はできないだろう。今回も電力逼迫を機に「原発推進」の声が上がるが、これがコンセンサスを得られることはないだろう。

もちろん、原発に関しても、もっと幅広に国民的な議論を起こす必要がある。稼働から30年以上もたった老朽原発よりも、最新技術で新設する原発の方がはるかに安全性が高いことは誰しもが認めるところだ。ところが、推進派は再稼働、稼働年限延長など目先の利用にこだわり、新設や建て替え(リプレイス)については封印して語らない。国論を二分するテーマだけに政治家はタブー視して語ろうとしないのだ。

ソーラーパネルが敷き詰められた敷地
写真=iStock.com/DiyanaDimitrova
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「電力自由化のせい」は本当なのか

話を戻そう。「今の電力不足は電力自由化のせいだ」という声もある。自由化によって不安定な再生可能エネルギーを増やしたからだ、と再生可能エネルギーそのものに反対する人から、電力会社に対する国の関与を緩めたのが間違いだ、とする人まで、もともと自由化に反対だった層の鼻息は荒い。岸田文雄首相は就任時に「いわゆる新自由主義的政策は取らない」と言っていたこともあり、自由化によって市場原理を導入したこれまでの電力政策に逆風が吹いている、という声も経産省内にはある。

エネルギーコストの急上昇などで、新電力会社の破綻が相次ぎ、契約していた人たちの電気料金が大幅に引き上げられていることなどを見て、「自由化の失敗」を指摘する声もある。

政府は今、火力発電所の休廃止について、関与を深めようと模索している。だが、供給を義務付ける代わりに利益を保証した「総括原価主義」の時代に舞い戻るのか、となると問題は大きい。その分を料金の形で国民が負担することになるからだ。一方で、「調整用」の火力発電所を維持するインセンティブをどう電力会社に与えていくのか。

経産省OBの意見も割れる。「インフラである電力は国がコントロールしないとダメだ」という声がある一方、「今の問題は自由化が中途半端だから起きていること。ギリギリで必要な調整用の電力の価格は高値で取引されるようになれば、インセンティブが働く」という見方もある。議論百出の間にブラックアウトが起きることなく、夏の猛暑を乗り切れることを祈るばかりだ。

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