オランウータンにもゴリラにも同性愛傾向がある
多様な性という点で、人間の文化・社会を見ていく前にもうひとつ、霊長類全体の性として考えてみたいのは「ホモセクシュアル(同性愛)」です。これはしばしば人間だけの現象と考えられがちですが、実はそうではありません。例えばイルカにも部分的にはホモセクシュアル的な側面があると言われています。よりヒトに近い種で言うならば、オランウータンやゴリラなどの高等霊長類にもホモセクシュアルの傾向を見ることができます。
オランウータンとゴリラのメスは発情徴候を示さないというのは先述した通りです。オスの性的興奮はメスの発情徴候に左右されないわけです。その結果、性の対象を異性だけに限定せず、同性間にも広げる可能性が生まれたのです。
生物進化の歴史的産物としてのホモセクシュアル
このような生物進化の過程で、人間もまた発情徴候がないため、性的魅力を感じる特徴を、性のシグナルではなく、個人的特徴に限定するようになったと考えられます。つまり人間は特定の相手の、特殊な特徴に魅力を感じるように進化した結果、男性にとって性的魅力を感じる相手は、女性という枠組みを超えるようになります。
こうして私たちは発情徴候に対して興奮するのではなく、声やしぐさ、身体のある部分といったものに性的興奮が喚起されるようになります。これが「胸フェチ」とか「尻フェチ」「脚フェチ」というような、いわゆるフェティシズムにつながってくるわけです。そしてそれは、異性であるということが、性愛の必要条件ではなくなったことを意味しています。
LGBTQの運動や理解などをつうじて、今日では異性愛以外の性のあり方についても比較的、理解が進んできていると思います。しかし、かつては異性愛以外の性というものは、次世代を作ることのできない、生物の原理からは反する異常な性愛であるとみなされることが多かったようです。ところが、生物進化の軸を入れて考えてみると、ホモセクシュアルというのは、性交の「障害」なのではなく、むしろ人類進化の歴史的な産物だと言うこともできるのです。