結婚後も少年との関係を続ける場合もある

このような儀礼が行われる期間は、サンビアの男たちの間では同性愛的な性行為が行われるわけです。それは少年にとっての通過儀礼であり、サンビアの男たちにとってのホモセクシュアルな期間と言えます。

奥野克巳『これからの時代を生き抜くための文化人類学入門』(辰巳出版)
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その後、男性は女性と結婚します。精液を授与される儀礼はあくまでも、男性性を獲得し、女性と結婚するために行われているのです。また、男らしさというものは、たくましさのことであり、それは端的に戦闘能力にもつながります。優れた戦士になるためには、年長の男性から精液を得て、それを充満させて一人前の男になることが必要だとされます。

女性と結婚をすることは当然、ヘテロセクシュアル(異性愛)に基づくわけですが、他方で妻をめとった後も、少年との関係を続ける場合もあります。その場合、夫はバイセクシュアルな状態にあると言えます。しかし、やがて妻が自分の子どもを妊娠し、出産すると、男性は父になります。それと引き換えに少年との性的関係は解消され、サンビアの男たちはヘテロセクシュアルのみとなるわけです。

一生の中でさまざまなセクシュアリティを生きる

7歳〜15歳の期間においてはホモセクシュアルとして、結婚してまもない期間にはバイセクシュアルとして、その後、父となるのと引き換えにヘテロセクシュアルとして、サンビアの男たちは、一生の中でさまざまなセクシュアリティを生きるのです。ですから、私たちがある特定の人の属性として「ホモセクシュアル」だとか「ゲイ」だとか「バイ」だとか名指すことは、サンビアの人々にとっては意味のないことになります。

このように、人間の性は、生物進化的な縦軸において進化してきた性から大きく逸脱して、比較文化的な横軸において多様な性の文化を開花させてきたのだと言えるのかもしれません。

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