飛行機の折り返し時間の短さもLCCの特徴だ。FSAの35~40分に対して、ピーチでは25~30分を予定している。早く折り返せばそれだけ機材の稼働時間は長くなる。FSAの稼働時間が7時間。ピーチが目指すのは12~13時間だ。

「いまそこにあるもの」は使い倒す。その方針はCA(客室乗務員)にも適用される。CAは客が降りた後の簡単な掃除も行う。1人で何役もこなすマルチタスクが原則である。

LCCの路線は2地点間を単純往復し、飛行機は必ず同日中に出発地に戻ってくるので、CAや操縦士の滞在費はゼロ。ピーチでは就航都市を国内5都市のほか、海外ではソウル、台北、香港など、関空から片道ほぼ4時間圏内に設定しているが、それは「窮屈な座席で耐えられるのは4時間が限度」(井上氏)という考え方に加えて、経費カットの意味合いもある。4時間のフライトであれば日帰りできるからだ。

ただし、断じて「ロー」にしないものがある。

「飛行の安全です。過去にはメンテナンスを怠って倒産に追い込まれたLCCがいくつもある。安全なくして航空会社は成り立たない。全社員共有の価値観です」(角城氏)。

もしLCCが事故を起こせば、一斉に顧客は離れるだろう。その勢いはFSAの比ではない。再起は不能だ。LCCのほうが安全というつもりはないが、安全性の追求に関してはLCCはFSAにひけをとらないということだ。

安全性を担保し原価を下げたうえでピーチがターゲットとして狙うのは、ウェブでの購入に抵抗がなく、飛行機に乗り馴れたオフタイムのビジネスマンだ。

「電車並みの運賃を提供すれば、旅行がしやすくなる。気軽に福岡のラーメンを食べに行ったり、帰省の回数を増やしたりもできるでしょう。11年12月から販売を始めたら、『孫の顔を見にいける』とか『進学先として関西の大学を考えるようになった』という声も届いている」と井上氏は言う。

だが、7月からはLCCの実践ノウハウを豊富に持つジェットスター・ジャパン、続いてエアアジア・ジャパンが就航を開始する。2社と違って、ピーチには培ったノウハウがない。ANAの子会社だが、実態はベンチャーだ。孤軍奮闘で利益率の高いLCCの仕組みを一から独自につくっていかなければならない。ジャパンメードの独立系LCCの真価が問われるのはこれからだ。

※すべて雑誌掲載当時

(小林禎弘=撮影)