韓国の音楽グループ「BTS」は、なぜ世界的アーティストとなれたのか。アイドルプロダクションのディレクター、ユン・ソンミさんは「BTSは既存のアイドルグループとはまったく違う戦略を採ることで成功を収めた」という――。

※本稿は、ユン・ソンミ『BIGHIT K-POPの世界戦略を解き明かす5つのシグナル』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の一部を再編集したものです。

BTS(防弾少年団)
写真=EyePress via AFP/時事通信フォト
2021年9月20日、ニューヨークの国連本部で演説したBTS(防弾少年団)

1枚のCDアルバムにすべての活動が詰まっている

K-POPアイドルにとって「活動期」とは、アルバム(CD)または音源をリリースし、番組出演などの関連プロモーション活動を積極的に行う期間を指します。

もちろん、非活動期にもアーティストは表立った活動がないだけで、多くの場合、海外ツアーやイベント、コンテンツ撮影など、休みなくスケジュールを消化しています。

図表1は、アルバムの制作プロセスを段階ごとに単純化して分類したものです。ただし実態としては、順序が固定されてひとつが終われば次の段階へと進むのではなく、流動的で変化に富み、複数の段階が同時多発的に進む場合もあります。

1枚のアルバムをリリースするため、アーティストはもちろん、関係するスタッフ、社員に至るまでが心血を注ぎます。「このアルバムにどんなメッセージをこめるか」という部分に始まり、悩みながら音楽を作り、関連コンテンツを企画・制作し、流通させ、プロモーションと公演ビジネス(ツアー)を行います。

つまり、1枚のアルバムでアイドルに関するすべての業務がつながるのです。

なぜ瀕死の市場が再成長を遂げているのか

オンラインでの音源ストリーミングが一般的になり危機にひんしていたアルバム市場が、アイドルを中心に再び成長を遂げました。しかしそれは、音楽を再びCDで聴くようになったからではなく、アルバムがアイドルのすべてが集約された商品としての所蔵価値を高めたからです。

図表2「K-POPアルバム販売量の推移」を見ると、世界的なアルバム市場の規模は減少を続けているのに対し、韓国のアルバム販売量は年々増加していることがわかります。これは、韓国の独特なアイドルおよびK-POP文化を背景として、アルバムの実用性よりも所蔵価値が重視されているためです。

アルバムがアイドルプロダクションの売上の相当部分を占めているのも事実ですが、1枚のアルバムはスタッフ一人ひとりの苦労と努力の結晶であり、アーティストのアイデンティティを作りあげるプロセスだとも言えます。