関税を削減し輸入を増やした国が危ない

2008年の食料危機には、アメリカが創り出した「人災」の側面がある、ということは先ほども述べたとおりである。

高騰した穀物価格のうち、需給要因で説明できるのは半分程度にすぎず、残りの半分は投機マネーの流入や輸出規制による「バブル」によるものだった。

図表1で検証しておこう。これは、トウモロコシの国際価格と在庫率との関係を示したものだが、需給が逼迫すると在庫が取り崩されるので、需給逼迫や緩和の度合いは、在庫率の増減で簡単に測ることができる。

【図表1】トウモロコシの国際価格と在庫率の関係
出所=『食の戦争

需給逼迫時は在庫率が低下するので、在庫率が低い時には価格が上がるという形で、在庫率と価格との間には右下がりの相関関係があることが見てとれる。

しかし、2008年については、従来の相関関係を示すラインよりも大きく上方に飛び出していることがわかる。

つまり、従来のパターンでは説明できないほど激しい価格上昇が生じたということである。

これは、需給関係だけでは説明できない他の要因が、価格に対して大きな影響を持ったことを示している。

ここで次に、「異常性」の程度について、具体的に分析した例を示す。

国際トウモロコシ需給モデル(高木英彰氏構築)によるシミュレーション分析では、2008年6月時点のトウモロコシ価格は本来なら価格が1ブッシェル(15万粒)当たり約3ドルまで上昇するほどの逼迫レベルだったと推定された。

ところが、実際にはその2倍の6ドルに跳ね上がっていた。

つまり、残りの3ドルについては、需給以外の要因によって暴騰が生じたと考えられる。

同様の価格の「異常性」は、トウモロコシだけでなく、コメ、小麦、大豆についても観察された。

特にコメについては、世界全体としては、在庫水準は前年よりも改善しているくらいだった。

にもかかわらず、コメ価格が高騰したのは、他の穀物が高騰している中で、コメの需要が増えるとの懸念から市場が混乱したことが大きな要因である。

各国ともまず自国の在庫確保を優先するために、輸出規制をするという食料の囲い込みに踏み切らざるをえなくなった。

つまり、「高くて買えないどころか、お金を出しても買えない」事態が起こっていた。

本来はコメの有数の生産国でありながら関税削減を進めて輸入を促進したためにコメ生産が縮小してしまっていた途上国(ハイチ、フィリピンなど)では、主食が手に入らなくなり、死者を出すような暴動が起きたのである。