無防備な日本は狙い撃ちにされる
アメリカは、いわば、「安く売ってあげるから非効率な農業はやめたほうがよい」と諸外国にアメリカ流の戦略を説くことで、世界の農産物貿易自由化を進めてきた。
それによって、基礎食料であるコメ、小麦、トウモロコシなどの生産国が世界的に減り、アメリカなどの少数国に依存する市場構造になった。
貿易自由化とは、比較優位への特化(競争力が高い分野に生産・輸出を集中させる)を進めることであり、輸出国が少数化していくことに他ならない。
そうして輸出する国の数が減って独占度が高まれば高まるほど、ちょっとした需給変化にも価格が上がりやすくなり、高値期待から投機マネーも入りやすくなる。
また、不安心理から輸出規制が起きやすくなり、価格高騰が増幅される。
そうした市場構造の帰結が危機を大きくしたのである。
つまり、アメリカの世界食料戦略の結果として2008年の食料危機は発生し、増幅されたという「人災」の側面を見逃してはならない。
アメリカの食料戦略の一番の標的は、日本だとも言われてきた。
アメリカのウィスコンシン大学の教授は、農家の子弟向けの授業で「君たちはアメリカの威信を担っている。アメリカの農産物は政治上の武器だ。だから安くて品質のよいものをたくさんつくりなさい。それが世界をコントロールする道具になる。たとえば東の海の上に浮かんだ小さな国はよく動く。でも、勝手に動かれては不都合だから、その行き先をフィード(feed)で引っ張れ」と言ったと紹介されている(大江正章『農業という仕事』岩波ジュニア新書、2001年)。
これがアメリカにとっての食料政策の立ち位置なのだということを我々は認識しなくてはならない。