小学校で「人気者になること」にこだわった理由

そういう積み重ねの経験からいつしか、「なんとかなるんじゃないか」という、あっけらかんとした自信を少しずつ積み上げていきました。

良太が生まれたときの想定が、一生寝たきりで、つきっきりの介護がいる状態だったというのもあるかもしれません。

ここまで健康に、楽しそうに生きてくれたから、この先もきっとなんとかやっていけるだろう。小学校へ入学する時も、もしかしたらいじめられるかも……という不安は頭の片隅にありましたが、前向きに迎えることができました。

幼い良太と過ごすなかで、一緒に得た心得があります。それは、おもしろいとか、かわいいとか、かっこいいとか、とにかく人から一目置かれる存在になると、毎日を楽しく安心して過ごせるということ。

つまり、人気者になることです。おかしいですよね。でも、本気で人気者の座を狙っていました。

どうやったって、人より成長が遅く、先生だけではなく友達にも助けてもらうことが多い良太です。でも周りに誰もいなかったり、近寄りたくないと思われてしまえば、困っていても助けてもらうことはできません。一人ぼっちになってしまいます。それに1人でも楽しい時間を過ごせるならそれでいいのですが、良太は、友達と一緒に遊ぶことが好きでした。

登校班で生まれたコミュニケーション

でも、私が子どもたちに呼びかけて、良太を助けてあげてほしいとか、良太と友達になってほしいとか、お願いするのは違うと思いました。うまく説明ができませんが、それは、良太自身が社会で生きていくために切り開いていくことです。

良太が、1人でできないこと。例えば、自分の障害について説明すること。思っていることを言葉で伝えること。周りをじっくり見て判断すること。なにかが起こったら報告すること。そうしたことを、私がまず、手助けしようと決めました。

まずは、登校班の子どもたちのところに、良太と一緒に行きました。あいさつをして、少し離れた場所から、良太と子どもたちを見守っていました。

1年生くらいの子どもは、大人を好いてくれます。離れていても「きっしーのおばちゃん、これ見て!」「こんなことあってん!」と、ワーキャー騒ぎながら、寄ってきてくれます。私は子どもたちとたくさん、楽しみながらコミュニケーションをとらせてもらいました。良太よりも、他の子と喋っている日もあったかもしれません。

そうすると、私のことを気に入ってくれた10人くらいの子どもたちが、良太のことをいろいろ聞いてくれるんです。

「きっしーの障害って、治るの?」
「病気じゃないから、治らないねん」

「文字読まれへんって、頭が悪いから?」
「読んだり、話したりするのは苦手やねん」

「なんでちょっと目の形が違うん?」
「せやなあ、なんでやろうねえ」

「きっしーはかわいそうなん?」
「かわいそうじゃなくて、楽しそうやよ」