ロシアはウクライナに複数のダムボムを投下し、数発のレーザー誘導弾を発射してきたが、戦場以外の場所を攻撃するのに使ってきたのは、多くがミサイルだ。ベラルーシとロシアの地上から発射されたのはいずれも、ミサイルシステム「イスカンデル」から発射された弾道ミサイルや巡航ミサイル(合わせて630発)だ。艦船や潜水艦から発射されてきたのは、巡航ミサイル「カリブル」(ロシア版トマホーク)。クリミア沿岸からは、一握りの標的に向けて地対艦ミサイル「オニキス」が発射された。

空からは、戦術戦闘機や中型・大型戦闘機が、Kh-22/32、Kh-55/555、Kh-59やKh-101など複数の空対地ミサイルをランダムに投下してきた。このほかに、極超音速ミサイルの「キンジャール」も12発発射した。

ウクライナ西部の標的を攻撃するには射程距離の問題があり、補給がうまくいかないために兵器を変更しなければならないこともあった。だが全体的に見れば、最大の問題はロシア軍があまり洗練されていないことだ。

ミサイル命中率は4割以下

「全体的に見て、ロシアのミサイルの命中率は半分をかなり下回る」と、米国防情報局(DIA)の匿名の職員は言う。この職員によれば、ロシアが撃つミサイルは10発のうち2、3発は飛ばないか、飛んでる途中で失速する。あとの2発は標的に到達しても起爆せず、さらに2、3発は照準に命中し損なう。「ロシアのミサイルの命中率は、40%にも達しない」

ウクライナ軍によれば、ウクライナの空域に入ったロシアの巡航ミサイルの10%近い110発撃ち落としたという。

「命中したとしても、狙いが何だったのかが問題だ」と、DIA職員は言う。「2日ほど飛行場と対空システムを攻撃してきたかと思えば、次は弾薬貯蔵庫、そして石油施設、工場、輸送網と、次々に目標が変わる。大した打撃はないし、後続の攻撃もない」

米軍流の戦略的空爆作戦は一度も試されていない。ウクライナの対空システムを破壊し損ねただけでなく、電力供給網や民間通信網も狙ってこないという。

「なぜゼレンスキーを黙らせないのか」と、空軍を退役した元軍人はいぶかる。「インターネットや通信を遮断するのは簡単ではないかもしれないが、試してみもしない」

彼によれば、ロシア空軍は米軍より30年遅れている。「彼らはここまで長引く作戦の準備ができていないし、量的な破壊ではなく効果を基準にした標的の選択の重要性がわかっていない。戦闘による損失の評価(BDA)も、動的ターゲティングのノウハウも持っていない」

だからロシア軍はザトカ橋の攻撃と攻撃の間に1週間もかかるのだ。戦果のほどを評価し、次の作戦を練るまでに1週間を要するからだ。

これまで約2万回の出撃があったうち、ウクライナの空域に入ったのは3000機程度で、それも戦場の上には飛んでこない。ロシア軍はウクライナの対空システムを恐れているのか、それとも空爆は長距離ミサイルの役目だという考えなのか?

これは将来の戦争のために重要なポイントかもしれない。未来の戦争では、航続距離1000マイル(約1600キロ)のミサイルが主力になり、その正確性と信頼性で「一撃必殺」の最優先兵器になるのだろうか。航空機による制空権争いはもはや重要でなくなるのか。いずれは誰もがこうしたミサイルを手にし、さらには中国さえが遠くの標的を正確に破壊する能力を獲得するのだろうか?

現時点でわかるのは、ウクライナ戦争がロシアにもたらす思いもしなかった結果だ。もう誰も、ロシアの兵器を買おうとしないだろう。ロシアはアメリカに次いで世界で2番目の兵器輸出国だが、ウクライナ戦争の展開を見る限り、ロシアに有利な点は一つもない。

「問題は物量ではなくなった」と、空軍の元軍人は言う。「アメリカもこの教訓を学ぶべきだ」

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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