この場合の「作戦」とは、ウクライナの防空システムを破壊するための組織的な攻撃のことだ。早期警戒システムと通信網を徹底的にたたけば、ウクライナは、ロシア軍機がいつどの方角から飛来するかを察知することも、地対空ミサイルを飛ばすこともできなくなる。

米軍は1991年の湾岸戦争で、こうした作戦のための黄金律を打ち立てたと、ストリンガーは言う。これは「何度も実行された戦術的プロセス」で、どこで戦う場合も欠かせない、という。

イラク、コソボ、アフガニスタンで米軍の航空戦を指揮した元米空軍の上級将校によると、その黄金律とは、「敵のレーダーを破壊し、通信を妨害し、戦闘機を撃墜し、飛行場を使用不能にし、SAM(地対空ミサイル)を無効化すること」だ。

「まずは制空権を確保すること。それが絶対条件だ。敵の空爆から米兵を守るためにも必要だが、2度のイラク戦争で米軍が実証したように、敵を弱体化させるためにも不可欠だ」

イラク戦争では「米陸軍の地上部隊が敵を追い詰めたが、それを可能にしたのは空軍の作戦だ」と、この将校は作戦上の話をするため匿名を条件に語った。

「貧者が空を制す」事態

ロシアが制空権の確保をあきらめたことは、ウクライナ戦争の顕著な特徴だが、西側の観測筋はその理由を解しかねている。侵攻開始から48時間は、ロシア軍もウクライナの防空システムを猛攻したが、それで終わり。その後は米軍が必須条件と見なす制空権の確保をあっさり断念してしまった。

飛行場や防空拠点を攻撃したのは最初の2日だけで、これらの施設を徹底的にたたこうという考えはなかったようだ。ウクライナの小規模な飛行部隊はおおむね戦闘不能になったが、ロシアの攻撃が中途半端に終わったおかげで、すぐさま防空体制を立て直せた。特に携行型の地対空ミサイルは広域の防空に威力を発揮し、ストリンガーの言葉を借りれば、「貧者が空を制す」状況となった。

ウクライナの地対空ミサイルを恐れて、ロシアは爆撃機の出撃回数を極端に減らした。本誌が検証した米情報機関のデータによると、ロシア軍は出撃可能な軍用機のわずか1割強しか使っていない。インフラ施設などの「戦略的なターゲット」に向けた長距離のミサイル攻撃は継続しているが、ウクライナの領空に戦闘機や爆撃機を飛ばすことはできる限り避け、空と海と陸からの攻撃を組み合わせる形、つまり地対地ミサイルや、艦船と潜水艦からのミサイル発射で空爆を補完する形態をとっている。

ということは、ロシアも攻撃方法を調整したのだろうか。自軍の損害を極力減らして、ターゲットを破壊する方法を編み出したのか。