「できない」を簡単に使わない

私たちは「できない」という言葉を簡単に使いがちですが、年齢や能力の面であきらかに「できない」こと以外は、「できない」のではなく次の4つのどれかです。

●これまでやったことがない
●やり方を知らない
●教えてもらっていない
●慣れていない

要するに「やればできるようになる」ということ。そしてやっているうちにどんどん上達していきます。

親が何でも先回りして完璧な対応をすることは、子どもから学びと成長を奪うことにほかなりません。生まれた瞬間に歩ける子どもはいませんよね。寝返り、ハイハイ、つかまり立ち、そして転びながら歩くことを覚えていきます。私たちは「きっと歩けるようになる」と励ましながら見守ります。そうして子どもはたっぷりと学びの機会を得ることでどんどんひとりで歩けるようになっていきます。それと同じことをすればいいのです。

「自分でできない子」にしてしまわないためには、子どもの学びの機会を奪わないこと。そう、やりすぎることは、「奪う」ことなのです。

奨学金の大会を見つけて応募したのは、娘本人

お伝えしたとおり、私は娘のバレエのサマーキャンプでは大はりきりで「やりすぎ」ましたが、それ以後はできる限り「信じて見守る」という「まかせる」育児を心がけてきました。

娘が2017年に優勝をいただいた「全米最優秀女子高生」ですが、この奨学金のコンクールを探して、応募したのは娘本人でした。

後で知ったのですが、じつはこのコンクールへの応募には必要な書類がたくさんあり、大変なプロセスだったようです。学校の先生からの推薦状2通や成績表、全国大会前の地方大会への出場の申し込み、そこで披露する特技の内容と音楽テープの準備、地方大会で参加者全員が踊るプログラムの練習や当日着用するコスチュームなど。

それらは全国大会の8カ月ほど前に始まります。娘はそのすべてをひとりでやっていました。私は「できることがあったら言ってね」と伝えただけだったのです。そして娘が「お願い」と言ってきたのは地方大会当日、会場までの送り迎えだけでした。

地方大会で優勝した後は全国大会へ向けての準備が始まりました。ワシントンDC代表には3人のアドバイザーがいました。そうして娘の質疑応答や立ち居振る舞いなどあらゆることを訓練してくれたのですが、そのスケジュール管理など、娘がすべて自分でやっていました。「できることがあったら言ってね」と伝えたところ、今度は「全国大会を見にきてね」とお願いされただけでした。

受験する大学を決めたのも娘です。受験に必要なSAT(大学進学適性試験)という共通テストのために何回くらい家庭教師が必要か、どこの誰に頼むかを決めたのも娘。私がやったことは受験の料金と家庭教師代を払うこと、そして送り迎えだけ。

親としては「もっと頼ってほしいな」とちょっと寂しく思うこともありますが、「まかせる子育て」の実践で娘は「自分でできる子」に育っていました。

子どもが自分で自分のことをできるようにすることは自立に必須。だからこそ、親は寂しさや物足りなさを感じても、子どもを信じてまかせて、子どもを解き放つことが大切なのだと思います。

娘の手に自分の手をやさしく重ねる母親の手元
写真=iStock.com/fizkes
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