ただ、自分で取り戻す行為がまったく認められないわけではない。コンビニで買い物をしている隙に自転車を盗まれて、いままさに犯人が立ち去ろうとする現場を目撃したとする。このときその場で自転車を取り返す行為は、急迫不正の侵害から自分の権利を守るための正当防衛であり、侵害が終わった後に自ら取り戻すのではないため自力救済の問題とは区別される。ただし盗難から数日後、盗んだ自転車に乗った犯人を見かけても、「緊急性がないため、勝手に取り押さえれば自力救済として違法になる恐れがある」(篠田弁護士)。
自力救済が許されるかどうかは、緊急性の有無だけでなく、相手に与える不利益の程度や、回復しようとしている利益の程度など、さまざまな要素を総合考慮して判断される。
たとえば家賃滞納者を強制的に立ち退かせる行為は、相手が受ける不利益が大きく、自力救済が認められにくい。
「住居の賃貸借契約は、貸主が督促をしても滞納が続き、もはや信頼関係の回復は難しいというところまでいってはじめて契約の解除権が発生します。しかし解除権があっても、鍵を勝手に取り換えたり家財道具を外に運び出したりするのは、借主の生活権に対する重大な侵害。立ち退かせたければ、建物明け渡し請求訴訟を起こし、判決にもとづいて執行官に強制執行してもらう必要があります」(同)
自転車の話に戻ろう。いくら自力救済が危ないといっても、自転車のために法的手続きを取るのは面倒だ。現実的にはどう対処すればいいのか。
「できれば警察に通報して現場に来てもらったほうがいい。警察官に盗品として届け出ることによって“後日”返却が受けられる可能性があります」(同)
(図版作成=ライヴ・アート)