転職して明確になった自分の価値

転職は新たな学びを得られるだけでなく、自分の価値を客観的に棚卸しするよい機会にもなります。

たとえば、それまで社内で役立っていた業務上のノウハウが、ひとたび転職すると、まったく役立たなくなることがあります。

「この案件を通すなら、まず○○さんに話をつけて、次に○○さんに承認を取ればいい」というような知識は、日々の業務では必要かもしれませんが、転職して汎用的に使えるものではありません。

そのようなノウハウがまったく役に立たない場に移ったとき、自分の人材としての市場価値がどこにあるのかを直視せざるを得なくなるわけです。

私自身、サンリオを離れたことで、自分の価値について改めて見つめ直すことになりました。

私は日本企業の海外展開については、実績も自信もあります。しかしサンリオの国内事業についてはあまり見ていませんでしたから、実は国内のキャラクタービジネス業界に太いパイプはありません。

ですから日本の企業から「海外展開したい」と相談を受けたときは力を貸すことができますが、国内での新たな展開を考えたいという相談に対しては「私の専門性があるからこそ提供できるサポート」というのは限られているし、差別化要素も少ないと感じます。

自分の価値を明確にできたことで、現在はそれを活かした仕事をしています。私の強みをシンプルにいえば「日本とアメリカを結びつけられること」「知財関連ビジネスに詳しいこと」です。

シリコンバレーでも多くの人が私をそのような人材として認知してくれているので、「知財のことなら彼に聞けばいい」「日本進出の相談をするなら彼がいい」といったように口コミがどんどん広がり、たくさん仕事の声がかかるようになったのです。

サンフランシスコ
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「転職」と「ラーニング」と「キャリアアップ」はセット

自分の経験からも強く思うのは、日本のビジネスパーソンの学び方とシリコンバレー流の学び方には根本的な違いがあるということです。

日本では「勉強する」「学ぶ」といえば、本を読んだり学校に通ったりする座学のようなイメージが強いように感じますが、シリコンバレーでは「転職」と「ラーニング」と「キャリアアップ」はセットになっているのです。

そもそもシリコンバレーに限らず、アメリカでは長く同じ会社に勤めて役職が上がっていくケースはあまりありません。

20代の若手の場合はまた少し事情が異なりますが、通常「階級を上げて仕事をしたい」と思えば、転職するのが一般的です。転職することで、給料も役職も上げていくわけです。

多くの人は3~5年ごとに転職します。30~40年もビジネスパーソンとして働けば、10社ほど経験するのがごく当たり前です。40代でも、5、6社のキャリアを重ねているという人が多いように思います。

この点の日米の違いについては、サンリオ時代から感じていました。

日本では新卒で採用した生え抜きの社員を主力として考えることが多いと思うのですが、当然ながら、新卒の育成には膨大な時間がかかります。生え抜きの社員は自社での経験しかないので、知見も相応のものにとどまりがちです。