40代だろうが、50代だろうが、容赦なく使い倒す
住宅業界は人の出入りが激しい。大手の老舗住宅メーカーは別として、中堅以下の住宅メーカーは中途採用がほとんどで、もちろんわがサクラホームもご多分にもれない。頻繁に入社しては退職するこの職場では、そもそも新入社員が長く働き続けることを期待していない。だから40代だろうが、50代だろうが、容赦なく使い倒すのである。
この前、井之上さんが辞めたと思ったら、もう新人が中途採用され本日付けで入社してくる。米谷さんは新人といえども51歳、大手のAハウスからの転職だという。同僚の河口さんは、「大手でさんざん楽してきた人だろうから、うちじゃもたないでしょ」と敵意むき出しである。
河口さんは45歳、新人が入ってくるととにかく先輩風をふかす人でもある。新人もライバルとなるため、そもそも育てようという意識などさらさらなく、大手メーカー出身だったりすると「なめられちゃいけない」と言わんばかりにこき使うのだから、入社するほうもたまったものじゃない。
入社して最初の仕事は草むしりと風船を膨らませること
米谷さんの勤務初日、河口さんは“年上の後輩”に鼻息荒く指示を出す。
「米谷さん、まずここの風船を全部膨らましたら、次はモデルハウスまわりの草むしりをお願いね。その後もあれこれあるから、風船が終わったら声かけてね」
新人を“指導”している河口さんはイキイキしている。米谷さんが30個におよぶ風船を膨らまし終え、「終わりました」と河口さんに声をかける。「どれどれ?」と確認しに行く河口さん。私も入社当初やられた口なので、その後の河口さんの言動はおおよそ察しがつく。
「あ〜あ、大きさがバラバラだね。もっとバランスを考えて膨らませてくれないと見栄えがよくないでしょ。悪いけど、やり直してくれるかな?」
そう言うと、米谷さんが膨らませた風船を次々に割り出す。風船作りを終えたかと思うと、モデルハウスまわりの草むしりをやらされ、そこでも「米谷さん、上の草だけもぎるんじゃなくて、根っこから抜かないと」とダメ出しされている。住宅営業マンとして入社したのに、風船作りと草むしりのクオリティーを求められる米谷さんも困惑している。
河口さんの指導は午後も続く。
「米谷さん、来場するご家族にとって一番大切なのはお子さんだ。お子さんをきっかけに親御さんを引きこむ。だから、はいっ、これ着て路肩に立って家族連れを誘導して!」
そう言って、クマの着ぐるみを米谷さんに手渡す。ただ使いすぎて白地は黄色に変色し、ヨレヨレクタクタになったこの着ぐるみを見たら、子どもは逃げ出すのではないか。米谷さんが入った薄汚れたクマは展示場入口の道路脇に立ち、行き交うクルマに手を振っている。そしてここでも河口さんから指導が入る。
「米谷さん、小ぢんまりした動きじゃダメ。もっとオーバーアクションで!」