住宅メーカーの営業現場は従業員の出入りが激しい。約10年にわたって住宅メーカーの営業として働いていた屋敷康蔵さんは「中堅以下の住宅メーカーでは中途採用がほとんどで、新入社員が長く働くことが少ない。そのため、40代以上で転職してきた『新入社員』も容赦なく使いつぶされる」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、屋敷康蔵『住宅営業マンぺこぺこ日記』(三五館シンシャ)の一部を再編集したものです。

ベンチに座って落ち込んでいるサラリーマン
写真=iStock.com/metamorworks
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ひどいときには1年、2年と工事がズレる

今はもうだいぶ落ち着いているが、福島県の住宅メーカーはどこも、東日本大震災のあとの数年間、建築バブルに沸いた。たしかに景気もよく、「稼げるでしょ」などとよく言われたが、その見返りに過酷な労働も強いられることとなる。

この時期、住宅メーカーは「取れるだけ取る」というスタンスで、契約を取りまくった。各営業マンが一人で10組以上のお客を抱えて打ち合わせから契約、着工から完工まで対応しなくてはならないのだから、その忙しさは尋常ではない。

とくにストレスになるのが、各人が会社から支給されている携帯電話だ。お客は用事があるとき、会社には電話してこない。担当営業マンに直接かけてくるので、その対応も業務の一環である。用事といっても、その多くはクレームである。

クレームで一番多いのは工期の遅れ。震災直後の福島県のような建築ラッシュになると、施工業者も職人もつねに足りない状態になり、工事が予定どおり進まない。1件の建築が遅れれば、あとに続く数十件の工事もトコロテン式に遅れていく。契約時に約束していた着工時期が半年、ひどいときには1年、2年とズレていくことになる。一刻も早く新築に住みたいお客のストレスの矛先は営業マンに向かう。