ロシアの侵攻を受けたウクライナのゼレンスキー大統領は、世界各国に支援を訴え続けている。政治ジャーナリスト清水克彦さんは「彼は『誰に向けて』『何のために』発信するのかが非常に明快だ。そのシンプルで強烈な言葉のおかげで、国際社会を味方につけることに成功した」という――。

※本稿は、清水克彦『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

ウクライナの首都キーウで共同会見するグテレス事務総長(左)とゼレンスキー大統領=2022年4月28日
写真=Ukrinform/時事通信フォト
ウクライナの首都キーウで会見するゼレンスキー大統領=2022年4月28日

東部の紛争終結を公約に掲げた「アウトサイダー」

私は体制を
打破するために来た
普通の人間。
(2019年4月19日 ウクライナ大統領選挙公開討論会)

大統領選挙の公開討論会で発したこのフレーズは、2001年4月の自民党総裁選挙で「自民党をぶっ壊す」とワンフレーズで宣言し勝利した第87代内閣総理大臣、小泉純一郎を彷彿とさせる。

ウクライナは汚職がはびこる社会だ。ゼレンスキーは「現体制をぶっ壊す」、しかも「アウトサイダーの自分だからできる」と端的に表現したのである。

彼は、汚職や政治腐敗の撲滅、2014年以降、主に東部で続く親ロシア派武装勢力との紛争終結を公約に掲げ、第6代ウクライナ大統領に就任した。

ソビエト連邦の崩壊に伴いウクライナが独立したのは、彼が12歳の時だ。大学教授の父とエンジニアの母を持ち、ロシア語を話す中産階層の家庭で育ったゼレンスキー少年は、どんな思いで激動する世の中を見てきたのだろうか。

彼が広く国民に知られるようになったのは、2015年に放映された政治風刺ドラマである。教師役の彼が政治腐敗への不満をぶちまけ、それがインターネットに投稿されて話題となり大統領になるというストーリーだ。

まさにドラマが現実化したわけだが、コメディアンや俳優として磨いた話芸は、選挙戦でも、集会や討論会の際、シンプルでかつ強烈な言葉として発揮された。そしてネットに動画を投稿するなどSNSを駆使した戦術も定着させていったのである。