ロシアの軍事侵攻後も首都キーウに留まり続ける

私たちはここにいる。
(2022年2月25日 キーウ市内で閣僚らと自撮りをした動画)

ゼレンスキー大統領が世界の注目を集める大きなきっかけとなった言葉が、

「私たちはここにいます。この国を守ります」

というシンプルでかつ強い意思が感じられるメッセージである。

「もともとコメディアンや俳優という経歴からも、ロシア軍の本格的な攻撃が始まれば、首都キーウを捨てて逃げ出すのではないか?」

プーチンのみならず、実は筆者もそう予測していた。

ところが彼は、アメリカ政府からの国外脱出の提案にも応じず、閣僚や側近たちとキーウの市街地で撮った動画を次々に配信した。動画に込められたメッセージは、ウクライナの国民や軍ばかりでなく、多くの国々の市民の魂を揺さぶったはずだ。

◇ロシア軍とウクライナ軍の戦力比較(「The Military Balance」2022)

ロシア 兵力=90万人 戦闘機=1391機 装甲戦闘車両=15857両
ウクライナ 兵力=20万人 戦闘機=132機 装甲戦闘車両=3309両

両国間には軍事力でこれだけの差がある。この差は中国と台湾の軍事力の差に匹敵する。それでも逃げない姿勢は、一気に彼を英雄へと押し上げたのである。

ひびの入った壁のロシア対ウクライナの旗
写真=iStock.com/IherPhoto
※写真はイメージです

西側諸国の目を覚まさせる「ウクライナ劇場」の始まり

無関心でいるのは
「共犯」になることだ。
(2022年2月19日 ミュンヘン安全保障会議での演説)

毎年2月、ミュンヘンで開催される「安全保障会議(MSC)」は、アメリカとヨーロッパにおける安全保障会議の中でも最も権威がある国際会議の一つだ。

2022年のMSCにも、アメリカ合衆国副大統領のカマラ・ハリス、イギリス首相のボリス・ジョンソン、ドイツ首相のオーラフ・ショルツらが顔を揃えた。

ロシア軍の侵攻がもはや避けられないとみられる中、会議に出席したゼレンスキーは、その数日前、ウクライナ東部の幼稚園にロシアのミサイルが着弾した事実を挙げ、

「無関心でいるのは『共犯』になることです」

と強い口調で訴えた。

このワードは、学校関係者がいじめ問題で児童や生徒に指導する際、しばしば用いられるものだ。

「誰かがいじめられているのを見て、見て見ぬふりをするのは卑怯。共犯と同じ」

ゼレンスキーも、これまでロシアに対し宥和政策(大目に見ることで対立を回避する政策)を取ってきた西側諸国の目を覚まさせる意味で、このフレーズを用いたように思えてならない。

居並ぶ各国首脳を前に単刀直入に述べたこの日の演説が、「ウクライナ劇場」の幕開けとなり、ゼレンスキーへの注目度が増す導火線になったように思う。