“終わったゴルフ場”をあえて高級路線に
コースを回った後、考えた末に決めたのは「高級ゴルフ場のグループにする」ことだった。
俊が見たところ、バブル後に破綻したゴルフ場はあいまいな性格の施設ばかりだった。高級でもカジュアルでもなく、近隣のゴルフ場と同じ料金、同じサービスをやっているだけ……。ゴルフ場業界は横並び体質であり、業界の論理で動いていた。サラリーマン経営者にとって「業界で目立つこと」はすなわち仲間外れにされることだ。みんなといっしょに同じ程度の経営をしていれば業績が思わしくなくとも、責任を取らなくていい。
「だって、あのゴルフ場もうちと同じことをやっているんですよ」
そんな言い訳ができる。
だが、あいまいな性格のまま経営していたら利益は出てこない。利益が出なければ賃金を上げることもできず、ゴルフ場の価値を上昇させることもできない。集めた預託金が残っているうちはまだやっていけるけれど、そのうちにじり貧になる。最後はどこかに買ってもらうしかない……。
そうしたゴルフ場をいくつも買ってグループ化したのがアコーディア(現在はソフトバンクグループ傘下の米投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループが買収)とPGMという大手資本だった。彼らはグループ化したゴルフ場を、一部を除いて低価格のカジュアル型にして、ビジター客を増やすことにした。その戦略は間違ってはいない。
だが、韓俊は違うことをやった。難しいこととは知りながら、高級路線をとって他のゴルフ場と差別化することにしたのである。施設を改善し、従業員の報酬を上げていくには他よりも高い料金を設定しなくてはならない。その代わり、上質のコースとサービスを提供する。彼はそう決めた。
コース整備、キャディサービス、料理の味まで
高級であるためにコースの整備と接客サービスに力を入れた。
太平洋クラブはコース管理部の人間を他のゴルフ場の平均よりも多く雇っている。管理部の人間は朝暗いうちから出勤してきて、フェアウェイだけでなく林のなかの芝を刈る。林のなかまで刈り込んでおけば、コースはきれいに見えるし、また打ち込んだボールを見つけやすい。結果としてプレーの進行が早くなる。プレーヤーは待たされることなくコースを回ることができる。
キャディについては研修に時間をかけた。サービス技術によってランク分けをし、優秀なキャディは転勤して他のコースのキャディに技術を伝える。つまり、キャディは転勤することがある。一般に、キャディは地元に暮らす出身者が行う。だが、同クラブではサービスの質を平均化し、底上げするためにキャディを異動させることがある。こうした人事施策をとっているのは日本中でおそらくここだけだろう。