コスト削減でコースは荒れ、来場者が減る悪循環

1971年、「日本全国に25のゴルフ場を作る」「環太平洋100コース構想」という壮大な目標を掲げて、共通会員制の太平洋クラブが設立された。しかし、目標は果たされることなく、2012年には破綻してしまう。破綻の原因は3つだ。日本経済の停滞、会員からの預託金償還請求が増加したこと、そして、コース利用者の減少である。

破綻した頃の太平洋クラブ経営者がやったのはコストを削ることだった。コースやクラブハウスのメンテナンス費用まで抑制したため、コースは荒れ、クラブハウスも汚れが目立つようになっていた。施設が老朽化し、従業員のモチベーションが低下すると来場者は減る。来場者が減るとゴルフ場の収入は少なくなり、経営者はまた経費を抑えることに走る。悪循環という言葉通りの経営だった。

破綻した後、会員たちが集まって会を結成し、遊技業界の最大手、マルハンにスポンサーになってもらうよう依頼に行った。マルハンは会員たちからの要請で太平洋クラブの再生に乗り出したのである。破綻しそうなゴルフ場を探していて、そして乗り込んでいったわけではない。

2013年5月、マルハンは太平洋クラブとスポンサー契約を締結した。

オーナーが三男に命じたのは「従業員教育」

マルハンは太平洋クラブが新たに発行した株式を引き受け、その資金で会員への預託金の一部返還を行うほか、別途提供される資金で設備投資、メンテナンス機械の新規購入などを進めると確約し、実行に移していった。この時、マルハンが買収に費やした金額は約270億円である。

スポンサーになった後、マルハン創業者でオーナーの韓昌祐(ハン チャンウ)は三男の韓俊を太平洋クラブの社長に指名し、次のような話をした。

「ゴルフ場のグリーンを整備して、従業員教育をやってほしい。コース管理のグリーンキーパーの給料を上げて、支配人と同じくらいにすればいい。その代わり、グリーンキーパーにはコースメンテナンスの責任を持たせること。それから従業員教育のなかでも力を入れるのはキャディ教育だ。マルハン流に教育して、そして、彼女たちの給料を上げてほしい」

着任した韓俊は、マルハンを遊技業界の最大手に成長させた戦略と同じ方法で太平洋クラブを改革していった。

美野里コース(茨城県)の施設
写真提供=太平洋クラブ
美野里コース(茨城県)の施設

「社長就任まで一度もゴルフをしなかった」その真意

まず、結果から見ていこう。マルハンが経営を引きついだ2013年、太平洋クラブは18コースで来場者は約67.3万人、売り上げは88億3000万円。8年たった2021年、コースは18のまま(1つは提携解除、1つは買収)だが、来場者は83万2000人、売り上げは123億6000万円。

ここにあるように、見事に再生させたのだが、韓俊が着任したばかりの頃、ゴルフ業界の関係者はうまくいくはずがないと思っていた。