日本にあって韓国にないものとは

尹次期大統領が取り組むべき課題は山積みで、まず少子化対策だ。

韓国の合計特殊出生率は、21年に0.81まで低下した。日本はコロナ禍で生まれてくる子どもの数がさらに減ったと話題だが、それでも合計特殊出生率は1.34ある(20年)。OECD加盟国中、1より小さいのは韓国だけという深刻な状況だ。いまの韓国が“絶望の国”であることを示す数字だろう。

女性が子どもを産む気にならないのは、国に対する信頼の欠如と考えていい。女性に限らず、韓国の人たちが最も嫌っているのは、日本よりも自分たちの国なのだ。韓国人が酔っ払って本音で話し出すと、たいてい韓国政府の悪口になる。彼らの自国嫌いは「ヘルコリア」という流行語にも表れていた。わかりやすく訳せば、「こんな国、クソくらえ」という意味だ。

韓国では、出身大学によって人生がほとんど決まってしまう。国立のソウル大学、私立の高麗大学、延世大学あたりを卒業して役所や財閥系企業に勤めるのがエリートコースとされてきた。近年は新興企業も就職先の候補に入ってきたが、基本的な構造は変わらない。

一流大学に合格しなかった(あるいは、しそうもない)若者は、お先真っ暗だ。大学受験に失敗したら、躊躇ちゅうちょなく韓国を捨て、アメリカなどへ脱出する。父親は韓国に残り、母親と子どもはアメリカで暮らす“離散ファミリー”は少なくない。もともと自分の国が嫌いだから、海外脱出に抵抗感はないのだ。

しかも近年は、過酷な受験戦争を勝ち抜いて財閥系企業に就職しても、40代を過ぎればIT時代に育った若い世代に競争で負けてしまう。50代、60代は出世してラクができるはずだったのに、肩たたきにあってしまう。年金も少ないから、退職後は公共交通費が無料だからと、フードデリバリーの配達員のようなアルバイトで暮らす元エリートも珍しくない。これでは自分の国にプライドを持てるはずがない。

韓国の科学分野、技術分野が強くならない原因の1つに、産業界の“エンジニア蔑視”がある。エンジニアの社会的地位を上げ、製造業の開発力を高めることも次期大統領の課題だ。

韓国人は、毎年秋になると憂鬱になるらしい。ノーベル賞が発表されるからだ。日本人が毎年のように科学分野で受賞するのに比べ、韓国で過去に受賞したのは平和賞の金大中元大統領だけだ。

韓国の中小企業は、研究開発に積極的ではない。東京・大田区の町工場みたいに、世界で通用する技術力がある中小企業が育たない。財閥系の大企業が信頼できないからだ。

私が韓国で講演すると、中小企業の経営者たちは「日本みたいに大企業と中小企業の信頼関係がないから、われわれは研究開発をやる気にならない。日本企業に類似品があれば、開発するよりもそっちと契約するように勧めるぐらいです」といわれる。