企業価値とは信頼度の総和

まずは事実を的確に把握することだ。誰もが当たり前と思っていることを「本当にそうか」と問い直し、本質を見抜くと、そこに問題を解くカギや宝の山が隠れている。これをファクトファインディングと呼び、コマツ社員の行動規範の一つに入っている。

私がデータで経営を「見える化」したのも、「日本はコスト高でものづくりに適さない」といわれるが、本当にそうかと思ったのがきっかけだった。問題は製造コストではなく固定費だった。事実を的確に把握するには見える化のための武器や方法も必要だ。リーマンショック後、販売が落ち込むなかで、コマツはどの代理店にどれほど在庫があるか、コムトラックスを通じてデータ化し、リアルタイムでつかんだ。そこで生産を控えながら代理店間の在庫調整を行い、いち早く黒字転換した。現状を見える化したことで業績の回復法を見つけ出していった。事実を把握すれば、どう行動すべきかが見える。

今、力を入れているのは、ブランドマネジメントの活動だ。21世紀に入って以降、われわれは「企業価値=株主価値」とする米国流を問い直し、企業価値とは「ステークホルダーから得られる信頼度の総和」と考えた。信頼度とはいわば、「コマツでないと困る度合い」だ。これがブランドになる。

そこで、世界中の顧客との関係について、その度合いを7段階で評価して現状を見える化し、それぞれ高めていく活動を進めている。このブランドマネジメントの方法も企業価値の本質を追求するなかで考え出したものだ。

知行合一で学べるものが最後は勝ち抜く。みんなが当たり前と思っているところから問い直してみることだ。

※すべて雑誌掲載当時

(勝見 明=構成 佐粧俊之=撮影)