少子化問題を解くヒントはどこにあるか

私が社長就任後に取り組んだ「ダントツ商品」の開発過程でも知行合一で業務改革に取り組んだ。他社が数年は追いつけないダントツの性能を製品に持たせ、差別化する。ダントツの商品の次はダントツのサービス、次はダントツの情報活用へとステージを進める。

全地球測位システム(GPS)を搭載し、稼働車両の全データをコマツの本部へ自動送信する「KOMTRAX(コムトラックス)」という管理システムを使い、車両ごとの情報を活用したビジネスを提供すれば、他社は入り込めない。このダントツの商品を開発しながら社内の仕組みも改革する。実践で身につければ体質として残る。

知行合一で自ら学ぶと、国づくりのあり方も見えてくる。「日本の少子化問題は避けて通れない」といわれるが、本当にそうか。コマツには年一回、各地の工場を地域に開放する行事がある。コマツ発祥の地、石川県の工場では従業員家族のおじいちゃん、おばあちゃんが連れてくる孫の人数が多く、どこが少子化なのかと思うほどだ。

そこで、社内の各事業所の既婚女性の子供の数を調べた。東京本社は0.5人と低いが、石川の工場は2.0人と多かった。石川ではおばあちゃんが子供の面倒を見てくれるなど、子育て支援の受け皿がある。賃金も地域では高いほうで経済的に余裕がある。ここに少子化問題を解くヒントがある。

日本は国内総生産(GDP)は世界第2位だが、国民一人あたりのGDPは米英仏独より低く、18位(06年)だ。なぜ低いのか。私は各国の都市化率と相関があるのではないかと考えた。都市人口の占める比率で英国は90%、米国82%、日本は66%だ。欧米は都市が分散しているが、日本は一部の大都市に偏っている。欧米は大企業の本社が各地に散在しているが、日本の大企業は大半が東京本社だ。

各都道府県の人口の増減を調べると、一人あたりGDPの低い県ほど人口が減っていた。若い人が東京へ移り、結果、出生率が低下する。最悪のスパイラルだ。打開策の一つとして、大手企業は本社を地方に移す。すると、各地で環境面と経済面、両面で出生率が高まる条件が揃う。それには各県が法人税率等で優遇措置をとれるようにするなど、裁量の移譲が不可欠だ。だからこそ地方分権は、焦眉の急なのだ。

これはどの研究書にも書かれていない。私が石川の工場開放日に子供たちに囲まれた体験を通じて問題意識を持ち、考え出した新しい国づくりのあり方だ。不確実性の時代に必要なのはこうした学び方ではないだろうか。