親・指導者の意識も変える必要がある
スキー板を履いて雪の斜面を横切るとき、ただ加速に任せてしまえば知らず知らずのうちに谷底へとたどり着く。目標を視認し、谷足の内側に体重をかけて軌道修正し続けなければ横断できない。
スポーツはこれと同じである。競争を前提とするがゆえに、いつしか方便であるはずの勝利の追求が目的化する。油断すればすぐに勝利至上主義へと傾いてしまうわけである。だからたえず微調整しなければならない。この微調整は、自らが斜面に立っている現実を自覚することで初めてなされうる。
全柔連は「仕組み」を変えた。日本にルーツがあり、オリンピックで多くのメダリストを輩出する柔道界のこの軌道修正は、若年層におけるスポーツの健全化に向けた大きな一歩であることは間違いない。だが、仕組みを変えただけでは不十分である。大切なのは、保護者や指導者など子供を取り巻く大人たちの「意識改革」である。勝利至上主義の弊害を学び直す大人が増えることで、子供が安心してスポーツに興じることのできる環境がつくられる。
勝利の味は格別だ。だがそれは、往々にしてひとときのよろこびでしかない。スポーツの豊かさは、真剣になって勝利を追求するそのプロセスにある。勝敗に付随して身についた価値は競技をやめてもなお残り続ける。これこそがスポーツがもたらす最大の果実であると私は思う。