「謝礼は月3000ドルで…」北朝鮮工作員が勧誘

職を失ったユジマシの技術者・労働者は数千人に上り、ロシアに移住した者や中国に招かれた者もいる。ICBM分野で米露に劣る中国は、ウクライナの軍事技術を評価し、優秀な技術者を招聘した模様だ。

核・ミサイル開発を進める北朝鮮もユジマシに注目し、旅行者を装った北朝鮮工作員がドニプロを訪れて技術者らと接触していた。2011年には、ドニプロでミサイル関連技術や設計図を盗み出そうとした北朝鮮の工作員2人がウクライナ当局に逮捕される事件もあった。

この時の裁判でウクライナ検察は、2人が在ベラルーシ北朝鮮貿易代表部員で、ユジマシの技術者らを「謝礼は月3000ドルでどうか」「北朝鮮のセミナーで講師をお願いしたい」などと勧誘したと指摘した。

3000ドルは経済破綻したウクライナの平均月収の10倍以上。日本人拉致問題と同様、外国人を騙して連れ出すことは北朝鮮の得意技だ。北朝鮮の工作員はその後も、ドニプロを定期的に訪れ、ミサイル技術者と接触したらしい。

ユジマシの労組幹部は「技術者や労働者は仕事を得るため、北朝鮮やイラン、パキスタンに渡航した」ことを認めた。

17年以降、成功率が格段に上がった背景

北朝鮮がウクライナからICBM技術を導入しているとの情報は、米紙「ニューヨーク・タイムズ」(2017年8月14日)が最初に報じた。同紙は、17年7月に発射された長距離ミサイル「火星14」に、ユジマシ工場で生産された旧ソ連製液体燃料エンジン、RD250の改良型が搭載されていたと伝えた。

RD250は、60年代に旧ソ連で開発され、その後次々に改良され、ユジマシで製造された。

16年までミサイル発射で失敗を繰り返した北朝鮮は、17年から成功率を格段に上げており、専門家は「海外から技術者やミサイルエンジンを調達した結果だ」とみている。

RD250エンジンの改良型は、ドニプロからロシア経由の鉄道で北朝鮮に送られた可能性がある。英シンクタンク、国際戦略研究所の専門家は当時、北朝鮮は同型エンジンを闇市場で入手し、「火星14」「火星15」などのICBMに搭載したと分析した。

これに対しユジマシ社は、「北朝鮮のミサイル開発にかかわったことはない」と全面否定した。