最近の例では、01年にアフガニスタン紛争が始まると、アメリカが敵の兵士を「違法な敵戦闘員」と呼んだ。チェチェンでのロシアの対応と同じく、アメリカはアルカイダの工作員とみられる容疑者を拘束しても通常の刑事司法制度に従って訴追しなかった。さらにアメリカは、外国人兵士は国家の軍隊に属していないため正規の兵士ではなく、戦争捕虜としての権利はないと宣言した。容疑者は尋問と拷問のため、キューバにあるグアンタナモ米軍基地の収容施設に送られた。

この政策のためにアメリカは、対テロ戦争への国際的な支持を失った。イスラム過激派は、グアンタナモやイラクのアブグレイブ収容所での収容者の扱いをプロパガンダに利用。こうした扱いからイスラム教徒を救うという名目で、アフガニスタンやイラクで戦う外国人兵士を数多く集めた。

外国人兵士からあらゆる権利を奪ったせいで、アフガニスタンでのアメリカの活動は台無しになり、失敗の一因になったとも言えるだろう。

ウクライナでの動きから見て、ロシアが外国人兵士の扱いに対する世界の反発を恐れている様子はない。各国政府は自国民がウクライナへ渡ることに慎重な姿勢を取っている。アルジェリアやセネガルなどは国際法で認められていないという理由で、自国民にウクライナへの渡航を禁じた。アメリカをはじめ多くの国では、ロシアと戦う外国人義勇兵を全面的に支持するのではなく、平和的な援助活動などでウクライナを支援すべきだといった主張が聞こえる。

紛争の行方がさらに複雑になる

だがどの国の政府も、自国民が捕らえられたり処刑されそうになった場合、確実に解放させるために何をするかという点には全く触れていない。

既に現地にいるアメリカや日本、インド、イギリスなどの兵士がそのような状況に陥ったら、どうなるのか。国民の怒りに後押しされて彼らの国の政府がロシアと戦争を始めることはないだろう。だが緊張緩和を図ったり、交渉による解決を目指すことは難しくなるかもしれない。

こうしたリスクを最小限にするため、各国は外国人義勇兵についての方策を今すぐ明確にする必要がある。自国民に対する一切の責任を否定するという選択もなくはない。

だが、外国人兵士への拷問や処刑のシーンを映した動画がネットで拡散される可能性は否定できない。そうなれば、犠牲者の敵を討ち、他の義勇兵を守るための行動を起こせという声が高まるだろう。

各国は、ウクライナ軍に参加する全ての兵士に合法的な地位を認めるよう改めて訴えるべきだ。母国を飛び出してウクライナのために戦うことを選んだ自国民の権利を守る方法は、それしかないかもしれない。

From Foreign Policy Magazine

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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