得意なはずの情報戦でプーチン大統領が苦戦

その点、ロシアは、情報統制によって国内の不満分子をある程度抑え込み、ウクライナ軍の無線通信を電波妨害で遮断し、前線で戦う兵士に虚偽の指令を送信して別の目標へと誘導するなど、これまで得意としてきた戦術を駆使してきた。

しかし、その一方で、ウクライナの通信システムを破壊できず、ゼレンスキー大統領(以降、敬称略)をはじめとするウクライナ政府の幹部、一般市民による自由な発信を許してしまっている。

ゼレンスキーらを支えたものについては後述するとして、ロシアのプーチン大統領(以降、敬称略)にとって最大の誤算は、「侵攻後、2日か3日で首都キーウは陥落させられるだろう」という見通しが甘すぎたことのほかに、ゼレンスキーがSNSを通じ、圧倒的な「メッセージの物量作戦」で国民を鼓舞し、国際社会の多くを味方に引き入れたこと、そしてウクライナ市民も、日々刻々と変わる戦場の様子を国際社会に向け発信し続けたことだ。

プーチンは得意なはずの情報戦で敗れ、苦戦を強いられているのだ。まさに、ことわざで言う「川立ちは川で果てる」(川に慣れている者は川で死ぬことが多い=人は得意な部分で油断し失敗しやすい)である。

台湾統一を目指す中国にとって「先行研究」に

一方、習近平国家主席(以降、敬称略)が、台湾統一を「核心的利益」と呼び「中国の夢」と主張する中国の情報統制はどうなっているだろうか。

最近では、3月4日、北京パラリンピックの開会式で、国際パラリンピック委員会のアンドルー・パーソンズ会長が平和を訴えた部分を中国国営中央テレビが翻訳しなかったことは記憶に新しい。

中国・北京の天安門
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「中国は、今でも中国政府にとって都合が悪い情報を国民に知らせていないのか。とんでもない国だな」

筆者もこう感じたものだ。

ただ、習近平からすれば、ロシア軍によるウクライナ侵攻は、格好のモデルケースになる。「侵攻した場合、国際社会はどう出るか」だけにとどまらず、国内の情報統制や相手国に対する自由な発信の封じ込めについても学べる「先行研究」になっているはずだ。