習近平批判を許さない不健全国家の狙い
中国では、2021年6月の全人代(全国人民代表大会)で、中国の国家安全を損ねるようなデータ収集に対し、法的責任を追及する「データ安全法」が成立した。また中国政府は2021年11月末、国内のニュースサイトで転載してもよいメディアのリストを公表した。
その翌月のアメリカの有力紙、ワシントンポストには、中国当局がTwitterなどを24時間体制で監視し、中国に批判的な外国人の個人情報を大量に収集しているとの記事も掲載されている。
また、監視社会の中国では、近年、2億台を超える監視カメラによる統治が続いている。とりわけ、「天網」と呼ばれ、監視カメラとAIを組み合わせたシステムは、監視カメラで人民の動きを追跡し、AIによる顔認証で個人を特定する優れモノである。
習近平指導部への批判は、国内外を問わず一切許さない、不満分子はどこまでも追いかけるといった情報統制や監視システムの強化は、健全な国家がやることではない。
その不健全な超大国は、虎視眈々と台湾、そして尖閣諸島を狙っている。
台湾侵攻に踏み切る場合、国内的には、ロシアがウクライナ侵攻後に実施したように、独立系メディアを徹底排除し、VPNをはじめ、ウィーチャットやウェイボーなども規制することが想定される。その辺りはプーチンの成功例に学べばいい。
そして、ロシアがウクライナでのSNS発信までは統制できなかった失敗例から、台湾国内の通信網にも触手を伸ばす可能性は極めて高い。
ウクライナのデジタル戦を支える「Starlink」
話をロシア軍によるウクライナ侵攻に戻そう。
人前にほとんど出てこないプーチンとは異なり、ゼレンスキーは日本や欧米での議会演説、TwitterなどSNSを通じてのスピーチなど精力的に発信を続けている。軍事力で10倍近い差があるロシアを相手に「言葉」で戦っていると言ってもいいくらいだ。
その発信を支えているのが「Starlink」である。これは、人工衛星で宇宙からインターネットに接続できるサービスを提供するシステムで、立ち上げたのは、アメリカの電気自動車テスラや宇宙開発を行う「スペースX」の創業者として知られるイーロン・マスク氏だ。
ゼレンスキーが大統領に当選した2019年の時点からSNS戦略を指揮してきたミハイロ・フョードロフ氏(現在の副首相兼デジタル改革相)が、ロシア軍が侵攻を開始した2日後、Twitterでマスクに「システムを提供してほしい」と呼びかけ、協力が実現した。
人工衛星を介する「Starlink」も、地上の通信機器が標的となれば危うい。しかし、光ファイバーケーブルを陸に揚げ、通信基地と接続する通常のインターネットの場合、基地が攻撃によって破壊されれば完全に使用できなくなる。
侵攻当日、ゼレンスキーから対ロシア情報戦を指揮する仕事も任されるようになった31歳のフョードロフは、途切れることなくゼレンスキーや自身の発信を続けるため、より安全な「Starlink」に目をつけ、ロシア軍にデジタル戦争を挑んだ。