意見が変わるのは矛盾ではない
【池田】さらに首尾一貫性みたいなものをすごく大事にする。新型コロナのワクチンは、僕は早いうちに2回打ったのだけど、たとえばデルタ株とオミクロン株では、ぜんぜん質も違うし毒性の強さも違うと思います。ブレイクスルー感染(ワクチンを接種済みなのに感染してしまうこと)だってする。それで「追加接種はあまり意味がないんじゃないか」というようなことを言うと、「以前はワクチンを打てと言っていたのに、今は打つなと言うなんて矛盾している」みたいなことを言ってくる人間が必ずいるんです。
だけどそれは矛盾ではなくて、状況が変わったのだから、言うことややることが変わるのは当たり前なんですよ。たとえば「春にA社の株式を買えと言ったのに、今は売れというのはおかしい」と言うのと同じです。会社の業績など状況の変化によって「株を買うか、買わないか」という行動が違ってくるということであれば誰でも理解できるのだろうけど、ワクチンのことになるといきなりわからなくなる人がいるんだよね。それが正義感なのか恐怖心なのかは、わからないけど。
感染症専門医の岩田健太郎さんは、コロナ感染拡大のごく初期に僕と討論したときに「サイエンティフィックなエビデンスとしてマスクはあまり役に立たないからどうでもいい」と言っていたんだけど、ある時から「飛沫感染予防にマスクは有効だ」と主張を変えたのですね。そうすると「岩田の話はコロコロ変わるから信用ならない」と言う人が出てくる。けれども、科学者というのはその時に「最も有効であろう」エビデンスに基づいて発言するものなんですよ。
それまでと異なる事象が目の前にあって、それを科学的に判断したときに答えが変わるというのは科学者としての当然のふるまいであって、むしろ常に一貫性がある科学者というのは信用しないほうがいい。Aと決めたらただひたすらそれを金科玉条のように守るというのは科学としては間違っている。