脅威を理解するための3つの視座
ロシアのウクライナに対する侵略戦争が、世界中に大きな衝撃を与えている。ヨーロッパから離れた日本ですら、かつてない衝撃を受けている。ただ日本では、テレビやラジオで、評論家ら日本人がウクライナ人に対して降伏を説教するなど、異様な事件も起こっている。日本人の多くは、まだ事態の深刻さがのみ込めていないのではないか、と感じざるを得ない。
多くの人々が、大変なことが起こっている、とは感じている。だがそれがどんな大変さなのか、理解するのは、必ずしも簡単ではないのだろう。そこで本稿では、国際法、地政学、政治体制論の3つの視座から、ウクライナ危機が国際秩序に放っている脅威の性格を描いてみる。そしてそれぞれにおける日本の立場を確認することによって、日本にとってそれらの脅威が何を意味しているのかを見ていくことにする。
明白な国際法違反と言い切れる理由
まず強調しなければならないのは、ロシアのウクライナ侵略が、明白な国際法違反だということだ。現代国際社会の秩序は、「国連憲章体制」とも呼ばれる。国連憲章は、世界憲法とは違うが、しかし193の加盟国が国際社会の根本秩序について合意した内容を持っているという点で、国際法の体系的な基盤となっている。国連憲章とは、組織としての国連も凌駕した規範のことである。
今回のロシアの侵略行為は、この国際社会の根本規範に明白に反している。国連憲章は、第2条4項において武力行使の一般的禁止を規定している。2条1項は主権平等の原則をうたい、2条7項では他国の国内管轄権への干渉を禁じている。一般人への攻撃などの国際人道法違反も甚大だが、まずもって国連憲章に明白に違反していることが、国際社会の秩序そのものに対する脅威だと認識されている理由である。