「ワンピース」やディズニーも認知には時間や労力をかけた
著作権意識が以前よりかなり向上した中国で、今後伊藤忠がムーミンを展開していくにあたり、どのようなハードルを乗り越えていかなくてはならないだろうか。
最大の障害は知名度ではないだろうか。中国で海外のコンテンツが人気を得る最も効果的な方法は、アニメなどの映像作品によるアプローチである。例えば、香港のテレビ会社から中国に売られたと推察される『カードキャプターさくら』は、中国地上波アニメ放映で大きく認知度を上げ、中国各地でカードキャプターさくら展が開催されたり、中国でリリースされているゲームとキャラクターコラボしたりしている。
またLINE Friendsのブラウンやコニーの例も参考になるかもしれない。中国ではLINEが使用出来ないが、LINEのキャラクター達は中国のデパートコラボなどの長年の地道な活動によって、一定の知名度を得ている。世界的に有名なディズニーも、上海ディズニーランド開園前から中国各地でキャラクターのグリーティングイベントを開催していた。
中国でのムーミンの知名度を向上させるためには、全中テレビ局で放送したり、動画視聴プラットフォームで根気強く発信したりしていく必要があるだろう。
2000年代のジャンプ作品アニメ『ワンピース』や『ナルト』が一部のファンだけでなく、一般人にも認知され、もてはやされるのに10年近く掛かっている。インターネットの普及により、情報伝達能力や拡散能力が劇的に向上した近年ではより短期間で認知させることも可能かとは思うが、それゆえ多くのコンテンツがひしめき合う中国市場において、爪痕を残すことは3~4年では不十分かもしれない。
発売禁止など制御できない部分もある
情報拡散をより能動的にするため、イベント開催やプラットフォームの構築を行うことも検討されるだろう。しかしこれらの施策では、イベントの開催に必要な営業性演出許可証や公式HPの開設に必要な経営性ICP、映像配信に必要な網絡視聴許可証などの許可証の取得が必要になる。アニメなどのコンテンツはプロパガンダも可能なため、中国政府が相当厳しい規制を敷いているのだ。そうなると香港の会社より中国の会社が遙かに動きやすい。
同様にコンテンツを扱うKADOKAWAは2010年広州に湖南天聞動漫傳媒有限公司と共に広州天聞角川動漫有限公司を、株式会社アニプレックスは2019年に上海に安尼普(上海)文化芸術有限公司を設立し中国でビジネスを展開している。
ほかにもフィギュアを製作、販売するグッドスマイルカンパニーは上海に良笑(上海)商貿有限公司と良笑塑美(上海)文化芸術有限公司の2つの会社を持っており、中国における商品のプレゼンスを高めている。
とはいえ、広州天聞角川は中国で多くのライトノベルを出版し、『涼宮ハルヒの憂鬱』(2003年/角川書店)が日中同時発売で成功した傍ら、一部出版物が発行されたのちに発売禁止に指定され、制御できない部分があるのも事実だ。
中国の会社は、日本人が想像する以上に、著作権に対して正しい考え方ができるようになってはいるが、商習慣の違い、文化の違いにより、ともにビジネスを行うにはまだまだ解決していかなければならない部分もある。
東南アジアにおける日本コンテンツビジネスも決してうまく行っているわけではないと筆者は考えており、よりドライに利益追求していく中国企業、より目が肥えている中国人民に対して、日本企業が自身の矜持を守りつつ、どれほど現地に文化的迎合、いわゆるカルチャライズできるかが、著作権の問題以上に日本企業に求められていることかもしれない。