では、仮に20億円の価値しかない株を29億4300万円と評価していたらどうなるか。
連結子会社を含めた大王製紙グループは、井川前会長に対する29億4300万円の貸し付けに対して20億円しか返済してもらっていないことになる。その差額の9億4300万円分だけ井川前会長に利益が生じ、会計上は「役員報酬」の扱いとなり、井川前会長には所得税が課せられることが考えられる。
それだけではない。9億4300万円の役員報酬は税法上の損金として認められず、大王製紙グループの課税所得は9億4300万円分上乗せされることになる。つまり法人税が加算される可能性も出てくる。
現状では今回の株価の妥当性について、まだ表立っては問われていない。しかし、先に触れたように特別調査委員会も疑問視しているだけに、税務当局による株価の妥当性の追及が期待されるところだろう。
そもそも、経営者が連結子会社から自分個人で使用する資金を借りることが間違いなのだ。また、市場で取引できない未上場株で返すなど、極めて不思議な行為といわざるをえない。創業者一族にとっては“本宅”の金庫の中にあった株券を、“別宅”である借り先の連結子会社の金庫に移しただけのことで、自分の懐はまったく痛まない。それでも文句をいえないのが子会社であり、自浄作用が働かない同族経営の弊害でもある。
残る疑問は、監査人は同社の財務諸表から問題を見抜くことはできなかったのかという点で、次回に検証してみたい。
(高橋晴美=構成 ライヴ・アート=図版作成)