先日、野中郁次郎先生(一橋大名誉教授)と、これからの企業のリーダーシップについて話す機会がありました。野中先生は、「ワイズ・リーダー」という論文をハーバードビジネスレビューに書き、米国でもたいへん話題になっているところでした。社会善をめざす経営者が現れないと、このままでは資本主義社会そのものが崩壊してしまう、という危機感がウォールストリートにも広がっているといいます。先生の言葉の中には、今こそ日本型経営を世界に発信するときだ、という想いがあふれていました。

野中先生がワイズ・リーダーで示した「賢慮型リーダーシップの6つの能力」は、次の6つです。

(1) 卓越した「善い」目的をつくる能力
(2) 他者と文脈/コンテクストを共有して場を醸成する能力
(3) 個別の本質を洞察する能力
(4) 個別具体と普遍を往還/相互変換する能力
(5) その都度の状況のなかで、矛盾を止揚しつつ実現する能力
(6) 賢慮を育成する能力

野村恭彦●イノベーション・ファシリテーター。国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)主幹研究員。富士ゼロックス株式会社 KDIシニアマネジャー。K.I.T.虎ノ門大学院ビジネスアーキテクト専攻 客員教授。 ©Eriko Kaniwa

この賢慮型リーダーシップの6つの能力が、まさにフューチャーセンターを立ち上げ、成功させていく能力そのものです。

フューチャーセンターを成功させるための必要条件として、戦略、方法論、空間、ファシリテーション技術など、多くの要素があります。しかし、その成否を分かつものは、フューチャーセンターを立ち上げるリーダーの、「賢慮に基づく人間力」になるでしょう。具体的には、「卓越したよい目的を設定し、よい場を創り、本質を洞察し、各ステークホルダーにとっての個別具体の文脈をセットし、矛盾を乗り越えるファシリテーションを行う」ことです。これができるリーダーがいなければ、フューチャーセンター・セッションで創発を起こすことはできません。

このような社会変革装置としてのフューチャーセンターを立ち上げ、複雑な社会問題を解決に導いていける人を、私は敬意を込めて「フューチャーセンター・ディレクター」と呼んでいます。

「世界は私たち一人ひとりの関係性でできあがっている」という価値観を共有し、賢慮型リーダーシップの能力を備えたフューチャーセンター・ディレクターが、日本全国の各地域、そして世界の各地域に存在して、お互いにテーマを共有しながら社会変革を起こしていく。それが、これからの社会の新しいインフラストラクチャーになると信じています。