五輪開催中に中東へのパンダ提供が進展

今回の冬季五輪に際し、中国政府は開会式に出席した外国要人との間で積極的な「五輪外交」を行った。そのなかで、2022年2月5日、習近平国家主席はカタールのタミーム・ビン・ハマド・アール・サーニー首長と北京で会見した際、中東で初の事例となるパンダ協力、すなわち繁殖研究のためのカタールへのパンダ提供の意向を示した。

かつて中国からパンダが贈られたのは、先方がパンダを欲しがるアメリカやイギリス、日本のような国が中心であった。しかし、近年は貸与先の多角化が進んでおり、中国のパンダ外交がいっそう能動的になっていることがうかがえる。

ビン・ドゥンドゥンブームの先に何を築くか

ところで、筆者はこの記事のかなりの部分を、中国の官製メディアの情報に基づいて執筆している。これにより、本稿自体がパンダを通じた中国政府の宣伝を増幅する役割を演じてしまっていることは否定できない。もちろん、筆者にその意図はなく、日本語圏の読者にとって読む価値のある文章になるよう心がけたつもりである。しかし、客観的に見える第三者に語らせる宣伝こそが優れた宣伝である。

筆者が本稿の執筆にかまけている間、本来もっと注目すべき問題はなかったか。たとえば、今大会期間中、江蘇省徐州市の農村において誘拐による人身売買によって結婚を強いられたと疑われる女性が、8人の子どもを出産させられた上に鎖でつながれ監禁されているとの映像が拡散し、中国のSNS上で政府の対応を非難する声が広がったことが報じられている。この問題は、中国の市民がどのような社会の実現を望んでいるのか、政府はネット世論の盛り上がりにどう向き合うのかを知る上で大きな意味を持つはずである。

日中両国社会がこのたび、ビン・ドゥンドゥンを通じて互いへの関心を高めたことは、大いに歓迎すべきである。しかし、その関心をパンダの話題だけで終わらせないこともまた、私たちがより良い未来を築くために重要なことであろう。

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