ビン・ドゥンドゥンの特徴は「科学技術」要素

さて、では2022年の北京冬季五輪はなぜ、マスコットにパンダを選んだのだろうか。パンダが中国のマスコットに起用されるおそらく最大の理由は、外国人に人気があるからである。

今大会のマスコット・デザインチームを率いた曹雪氏は、ビン・ドゥンドゥン誕生秘話を語るなかで、自身が外国のホテルでテレビをつけるたびにパンダが現れることからもパンダがいかに外国人から好かれているか分かると指摘している。

ただし、ビン・ドゥンドゥンに込められたメッセージは、オリンピックを楽しむ外国人に対する「おもてなし」にはとどまらない。曹雪氏によれば、今回のデザインでは従来のパンダのマスコットとの差別化を図るために、「科学技術」の要素を盛り込んだという。たしかに、ビン・ドゥンドゥンの表面を覆う殻は宇宙服のようでもあり、2019年9月にデザインが発表された際の報道には、「未来から来た宇宙パンダ」との紹介文も見られる。

国民に対する「誇りを持とう」というメッセージ

細かい設定には多少のブレがあるようで、公式プロモーション動画を見ると、雪山に住むパンダ君が宇宙からの謎の落下物によって超能力を得て、変幻自在な氷のスーツに身を包み、国家スピードスケート館(通称「アイスリボン」)で各種競技を楽しんだ末、大気圏を突破して船外作業中の宇宙飛行士と邂逅を遂げるストーリーになっている。なお、ビン・ドゥンドゥンの眼鼻の周囲で殻に覆われていない部分の輪郭は、国家スピードスケート館の外観を模している。

いずれにしても、ビン・ドゥンドゥンには、現在の中国はパンダだけではなく科学技術、宇宙、未来といった要素によって象徴されるのだ、という設計思想が込められている。これは海外に向けたアピールにとどまらず、中国国民に対する「自国に誇りを持とう」というメッセージにもなっているのだろう。

ビン・ドゥンドゥンの容姿で何より特徴的なのは、水晶のような透明の外殻である。デザインチームは、自在に形を変えることのできる水の性質に着想を得て、氷のスーツがさまざまなスポーツ用具に変形する設定を生み出したという。