子どもを受験させたときの経験が小説のベースに

——実際に、朝比奈さんもお子さんの中学受験に熱中されたそうですね。

【朝比奈】私には子どもが2人いますが、どちらも中学受験をしました。情報を集めるために講演会やセミナーに通い、受験関連本を読み、一人目が6年生のときは仕事をセーブしていたほど。その知識が『翼の翼』を執筆する時に役立ちました。当時、円佳ほど子どもを追い詰めることはなかったですが、イライラしたり、不安になったりと、心の中に起こったことは小説に書いています。

一人目の受験のときは仕事をセーブすることもあったと話す朝比奈さん。
撮影=干川 修
一人目の受験のときは仕事をセーブすることもあったと話す朝比奈さん。

——後半、翼の父親で円佳の夫である真治が、翼の成績が落ちていくとスパルタ式で勉強させる。その描写は怖いほどの迫力です。

【朝比奈】息子の中学受験を通して、彼の未熟さが露呈しましたが、そうなってしまう真治が、かつてどんな子どもだったのか、どんなふうに育てられたのかも考えたかったのです。また、親はつい子を導かなきゃいけないと思ってしまうけれど、もしかすると、導ける力がないかもしれない。そういう視点に立って、カッとなってしまうときこそ、自分の中にも未熟な部分、子どもの部分があると気づけるといい。

私も学生時代から会社員だったときまで声を荒げたことはほとんどなかったので、自分では感情の振り幅が小さいほうだと思っていたのですが、親になると子どもたちに対して自分の感情をコントロールできなかったことが何度もあり、ダメな母親でした。子どもが何をしているか気になってしまい、口を出したくなってしまった。どうしてもっと信じて見守ってあげられなかったのだろうと今は思いますが、当時はうまくできませんでした。