世界中の供給網が寸断され始めている

そのほか、ロシアは自動車の排ガス浄化触媒に使われるパラジウム、スマートフォンの筐体などに使われるアルミニウム、ステンレス鋼材の原料や電気自動車(EV)バッテリーなどの正極材として使われるニッケルの主要な産地でもある。経済のグローバル化によってウクライナとロシアは世界のサプライチェーンに組み込まれた。

それが寸断され始めている。戦争の勃発によって、ウクライナでは社会インフラや生産設備が破壊された。黒海沿岸地域の港湾施設や鉄道の運行など物流も停滞する。主要産品の供給は大幅に減少する。ウクライナ問題は、新型コロナウイルスの感染再拡大によるサプライチェーンの寸断を深刻化させている。

各国が自国の安定のためにエネルギー資源や食料の確保を急がなければならない。価格メカニズムを通した効率的な資源の再配分は停滞する。世界全体で供給のボトルネックが深刻化し、これまで以上に世界全体でインフレ懸念が高まりやすい。

中銀の外貨資産凍結、SWIFTからの排除…

言い換えれば、ウクライナ侵攻によって世界経済はブロック化に向かいはじめた。今後、世界経済全体で成長率は低下するだろう。特に、米欧が、ロシアの中央銀行が連邦準備制度理事会(FRB)などに持つドルなどの外貨資産を凍結することは大きい。中銀への制裁によって西欧諸国はルーブルを急落させ、プーチン政権の社会・経済運営および安全保障体制を弱体化させようとしている。

2月28日の外国為替市場ではロシア中銀がルーブルを買い支えできなくなるとの懸念が急増してルーブルが急落した。仕方なくロシア中銀は政策金利を20%に引き上げざるを得なくなった。インフレ懸念が高まり、金利も急上昇することによってロシアの社会心理は悪化する。それに加えて、米欧はロシア大手銀行を国際的な決済システムであるSWIFTから排除する。

一連の金融制裁によって主要先進国の銀行はロシア関連の資金決済を停止したり、可能な限り減らしたりしなければならなくなった。SWIFTのデータによると、2022年1月の通貨別決済ランキングは、米ドルが39.92%、ユーロが36.56%、英ポンドが6.30%、人民元が3.20%、円が2.79%だ。ロシア経済全体で資金繰りは逼迫し、ロシア国債がデフォルト(債務不履行)に陥るリスクは高まっている。