そうなるとインフレ率が今のレベルを保つ限りにおいてはS&P500で4割程度下落してもおかしくない、ということになる。数字でいえば2900ポイント程度、ダウでは2万2000ドル、ナスダックで9600ポイント程度である。
もしインフレがさらに進行したり、企業収益が落ちてくるようであればさらに下落することになり、逆にインフレが鎮静化したり、企業業績が改善すれば下落幅が小さくなる。
PERとインフレの関係が株価を決めるという前提に立つなら、とりあえずはこのあたりの下落までは覚悟する必要があり、底値のめどと考えられる。
なお、市場関係者の間には、米連邦準備制度理事会(FRB)が株の暴落を引き起こすような利上げはしないだろうという考え方もある。だが、FRBが株価に影響を与えずに慎重に利上げをする時は物価が落ち着いていて経済が正常化するような場合である。
中央銀行は、インフレとなったら株価を犠牲にしてでもインフレ抑制を優先すると考えている。インフレになっても利上げをしないのは日銀とトルコくらいである。
日銀は財政上の制約から利上げができない。トルコのエルドアン大統領はなんと言われようが利上げを嫌い(インフレ対策には利下げが効果があるという信念があるようにもみえる)、逆らう中銀総裁の首を飛ばしてしまうからだ。
証券会社は「売り時」を語らない
読者の中には、「そんな悲観論はどこの証券会社も言ってないぞ」と思われる方もいるかもしれない。では、なぜ一流のアナリストやストラテジストの大半がこのような主張をしないのか。
これは単純な話で、証券会社の利益は株価が上昇している時のほうが儲かるからである。株価が下がると会社の利益が減るので下がってほしくない。
証券会社のセールスは、利食いの時と他の商品に乗り換えさせたい時以外は基本的に売りを推奨しない。特に評価損が発生している銘柄を、さらに値下がりしそうだからといって売らせることも基本的にしない。
損失を確定する売り推奨は、顧客にとっては聞いていて気持ちの良いものではないし、セールス側にしても自分の推奨が間違っていたことを認めることになるため、避けたくなるのは当然である。
これもまた業界では常識であって、画期的な発見でも意見でもない。証券会社が自ら書いても得にならないので書かないだけである。
「絶好の買い場」という言葉にはご用心
ここで、証券会社がいかに強気バイアスを持っているかを検証してみる。
本来、証券会社が最も売り推奨をすべきであったタイミングはリーマンショック直後だろう。その時点でアナリストたちがおこなっていた推奨の分布は以下の通りである(図表5)。