大手の化粧品メーカーはなぜ真似できないのか

この話を聞いて「たかだか、アイライナーやファンデーションにさまざまな色を加えただけでしょ」と思ってしまうと、本質を捉えることはできません。

資本力のある大手の化粧品メーカーであれば、表面だけを真似ることは簡単にできます。

実際、ある企業が、Fentyよりも色の数を増やしたファンデーションを発売しましたが、鳴かず飛ばずの結果でした。売り方だけ真似をして、何色ものファンデーションを出したとしても、リアーナの気づきや勇気、振る舞いが抜けてしまえば、ブランドとしては支持されないのです。

ブランドとして重要なのは、リアーナのように「本気で未来への約束ができるか」ということなのです。つまり、現代のブランドは、技術力や商品ラインナップだけではなくて、お客さんと向き合う姿勢や、振る舞い、「世の中を本気で変えていこう」とする勇気が問われている。かたちだけ真似をしても意味がないんです。

「多様性が流行っているから、ブランドのアンバサダーにレインボーカラーのドレスで登場してもらおう」といった表面的な企画では全くダメなんですね。そういう「おためごかし」は、簡単に見抜かれてしまいます。

もちろん、リアーナが「言っていること」のみならず、それを「体現しているプロダクト」も高いクオリティにあることが大事です。

思想的な約束をするのであれば、当然品質も高くなければなりません。モノも、製造プロセスも、信念も、売り方も、ブランド活動、ブランド接点、すべてに一貫性が問われる時代になったのです。

企業は消費者に、未来の安心を約束できるか

マーケティングの教科書では、市場のどこにニーズがあって、どこにターゲットがいて、その人の課題は何かを細かく特定して、それを解決していくことが必要だと習います。

いわゆる、コトラーのSTP戦略ですね。要は消費者のニーズを掴み、そのニーズを満たせばプロダクトは売れるということです。

しかし、現代はSNSなどを通して、企業の姿勢そのものが人々に見えやすくなったこともあり、単に消費者のニーズを満たしていれば売れるというわけにはいかなくなっています。

これまで、消費者に見えているのはせいぜい広告かプロダクトだけで、企業内の活動は「密室」で行われていても、問題視されることはありませんでした。

しかし、情報公開や、透明性が求められるようになると、企業の経営者の思想や発言、製造プロセス、従業員の振る舞い自体が大いに問われるようになったんですね。スキャンダルも揉み消せなくなっています。

そこで、ニーズを満たすこと以上に重要になってきているのが「企業が消費者に、どこまで未来の安心を約束できるか」ということなのです。

ブランドのストーリーや思想はもちろん、それをどのようなプロセスでかたちにしているのか、どのように売ろうとしているのか、具体的な行動も問われているのです。