しかしひとたび逃げ出せば、結果として不法残留となり、正規の職を得ることはできなくなる。「逃げ出しても多額の借金が残っているので、不本意ながらも反社会的な行為に手を染めながら生きていく道を選ぶしかない」(グエットさん)。

実際に、ベトナム人による犯罪は増えている。警察庁組織犯罪対策部がまとめた「令和2年における組織犯罪の情勢」によると、令和2年中の来日外国人犯罪の総検挙人員は1万1756人、国籍別ではベトナム人が4219人(構成比率35.9%)と最多を占め、窃盗犯の増加が目立つ。

都内ではここ数年、万引きを警戒する店が増えた
筆者撮影
都内ではここ数年、万引きを警戒する店が増えた

アジア人に選ばれない日本、選ばれる台湾

一方、台湾もまた日本と同様に外国人労働者に依存してきた。四方を海に囲まれる台湾は、日本と同様に1980年代後半から土木・建設業界で外国人労働者の受け入れを開始した。日本では1990年代初頭のバブル崩壊で外国人労働者の需要は縮小するが、台湾では建設、製造、介護・福祉の分野で受け入れが進み、35年を超える実績がある。

その台湾は、2018年に日本が「入管法改正案」を閣議決定するまで、日本を上回る水準のベトナム人労働者を集めていた。日本の外国人労働者数は約172万人で、人口に占める割合は1.4%だが、台湾は約72万人(人口は約2300万人)を集め、その割合は3%を超えている。日本と何が違うのだろうか。

台湾では、1991年に「就業服務法」が成立し、増える労働者の需要と不法就労の防止、台湾住民の雇用保障を焦点にした新制度の運用が始まった。1992年には「外国人招聘許可および管理法」が施行された。ちょうど、日本では「技能実習制度」が立ち上がった時期である。

基本給や休日規定、仲介料も上限を明確化

こうした法制度のもとで、台湾の行政は企業側に対し、雇用のプロセスと責任を明確に示してきた。例えば、台湾の製造業における受け入れでは、基本給は月2万5250台湾ドル(日本円で約10万1000円)と決められ、月に4~5日の休日を与えることを必須とし、本人が休暇を取得したがらないケースに対しては、1日567台湾ドル(約2268円)×4~5日分を払うという規定が設けられている。また、人材仲介会社が仲介料として徴収できる金額については月額の上限がはっきりと数字で示されている。

台湾では、人材仲介会社や行政のホームページでも、企業側が外国人労働者に対して支払わなければならない項目と金額、労働者本人が負担しなければならない諸費用が分かりやすく示されている。労使間に存在した曖昧な部分をガラス張りにしようという取り組みの一端が伺える。

若者の層が厚いベトナムには「職がない」という雇用問題が潜在する(ハノイにて)
筆者撮影
若者の層が厚いベトナムには「職がない」という雇用問題が潜在する(ハノイにて)

もっとも、これで万事が解決したわけではない。「仲介業者の手数料問題」には相変わらず“抜け穴”が存在する。また外国人労働者は自由な転職が原則できない状況に置かれている。今年1月には「自由な転職」を求めて400人規模の街頭デモが行われた。