ところが英国の労働党政権で起きたことは、貧富の格差の急拡大だった。経済界の意向を受けてさまざまな規制緩和を進めた結果、金融界を中心に株主・経営者の所得が急増する一方、労働者の待遇は悪化の一途をたどったのである。

経済界にすれば保守党と労働党の二大政党のどちらが政権を担っても経済界の利益が優先されるという「極めて都合の良い政治状況」が出現した。

労働党は2010年に下野した後、労働者とかけ離れ経済界の代弁者になったことへの自己批判が強まる。だがいったん離れた労働者の支持を取り戻すのは容易ではなく、英国では保守党・労働党の二大政党とは別に、地域政党など第三極の政党が台頭した。

保守党の異端児でロンドン市長だったボリス・ジョンソン氏を一気に首相の座に押し上げたのも、二大政党政治を見限った労働者たちの不満と無縁ではない。労働党が「第三の道」を掲げ経済界に接近したことは、二大政党政治の枠組みを大きく揺るがすことになったのだ。

切り捨てられた労働者たちの怒りがトランプ大統領を生んだ

米国でも民主党のビル・クリントン大統領(1993~2001年)とバラク・オバマ大統領(2009~2017年)が経済界に接近し、規制緩和を大胆に進めた。この結果、英国と同様に貧富の格差が急拡大し、金融界を中心に大富豪が続出する一方、切り捨てられた末端労働者たちに不満が鬱積うっせきしたのである。

経済界にとって共和党と民主党のどちらが政権を担っても自分たちの利益が優先されるという都合の良い政治状況は英国と同じであった。労働者たちの怒りはワシントンやニューヨークで暗躍する政治家やロビイスト、そして彼らの声を代弁する大手メディアに向かった。

既存の政治家や大手メディアを徹底的に批判することで末端労働者たちの怒りを吸い上げて糾合し、大統領の座にのしあがったのがトランプ氏である。当初は共和党有力者にトランプ支持の動きはなく、泡沫候補扱いされていたが、トランプ氏は全米の労働者たちの熱狂的な支持を背景に共和党を乗っ取ってしまったのだ。

2019年5月23日、ニューヨークの土産物店のショーウィンドウには政治家の風刺人形
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現在の民主党のバイデン大統領は「反トランプ票」を束ねてトランプ氏をホワイトハウスから追い出したが、全米の労働者たちが共和党と民主党の二大政党政治に抱く不信感は根強く、トランプ氏の大統領復帰を期待する声は収まらない。

二大政党がともに経済界にすり寄り、労働者の声が政治に反映されず貧富の格差が急拡大した米英の現象は日本とうり二つである。そして連合がなりふり構わず政権与党や経済界へ接近し、その背中を必死で追いかける立憲民主党の姿は二大政党政治の断末魔のようだ。