そのため、講師になりたての頃は、授業を延長することもしばしば……。もちろん授業を延長する、つまり長く話すことで生徒たちから不満が出てきていました。授業アンケートにも「延長するな!」という辛辣しんらつなコメントも……。

当時の自分としては、知識や情報を提供することが目的の予備校で、「できるだけたくさんの知識や情報を話してあげたほうが、生徒は喜ぶのでは?」と思ったりしたこともあったのですが、生徒からのリアクションを鑑みると、その考えは大間違いだったのです。

ただ、実際にどうしたらいいのかわからず悩んでいたときに、こんな言葉に出会ったのです。

「何を話すかよりも、何を話さないかを決めることのほうが重要だよ」

この言葉は、駿台予備学校講師の三國均先生の生前の言葉です。三國先生は、私が予備校講師を目指したきっかけとなった伝説の講師です。

この言葉をきっかけに、私は限られた時間の中で「いかに話さないか?」を常に考えるようになったのです。

そして、この言葉を実行に移すために、思い切った方法をとることにしたのです。

それが、「抜粋」という方法です。

通常、伝える情報を削減するための手っ取り早い方法は「要約」でしょう。ただ、「要約」が苦手だった私は、思い切ってバッサリと情報をカットしてしまう「抜粋」という方法を選択したのです。

「抜粋」は、情報を圧縮して伝える「要約」と異なり、抜き出した情報以外、すべて切り捨ててしまいます。そのため、相手に伝える際にちょっとしたコツが必要となります。

要約よりも簡単…「抜粋」を効果的に見せる3つのステップ

そのコツというのは、その抜き出した情報を伝える際の冒頭で、以下の3つのステップで伝える言葉を組み立てていくことです。

Step1 伝えたい情報量の全容を提示する
Step2 その中から1つ抜き出すことを宣言する
Step3 その1つを抜き出した理由を伝える

1つずつ説明していきます。

Step1(図表1)では、まず、本当は伝えたい情報量が膨大であることを、正直に相手に伝えます。

【図表1】Step1 伝えたい情報量の全容を提示する
イラスト=長野美里

たとえば、「本当は、話すと2時間かかってしまうのですが、……」、「実際には本1冊分の情報量なのですが、……」、「全部で20個すべきことがあるのですが、……」などのように、情報のボリュームの多さをあえて暴露してしまうのです。