アマゾンが三菱商事から購入する再エネ価格が、今回の入札価格となった11円台よりも高ければ、三菱商事としては市場に電力を卸すよりもアマゾンにPPAで供給した方が利益は大きくなる。安い価格でも事業権を何としても落札する動機はここにある。
例えば、アマゾンが秋田県由利本荘沖の洋上風力からの電力全てを16円で、20年間買い取る長期契約を三菱商事側に提示したとしよう。
三菱商事側が投資回収できる十分なレベルと判断すれば、とにかく安い価格で入札しても損はしない。事業権を獲得しさえすれば16円で落札したのと同じ利益を得ることができるからだ。高値で売れる見込みがあるからこそ、供給者側はリスクを取れるのだ。
再エネ普及が急加速する“新しい構図”
昨年末の入札は、三菱商事がリスクを取りながらの思い切った一手を打った。そのチャレンジと決断力は評価に値する。先述の通り懸念点はあれど、後れをとる日本の脱炭素転換を加速させる契機になるはずだ。
今回の三菱商事とアマゾンの関係のように、再エネの供給側が需要側を確保して、事業権の獲得や再エネ発電の拡大が進む構図は今後のスタンダードになってくるだろう。
世界的な脱炭素トレンドの中で、化石燃料に依存する企業に対する投資家の目線は厳しさを増しており、企業は再エネの囲い込みに必死だ。国内でも需要者が供給者を巻き込みながら再エネ確保を進めれば、日本の脱炭素は加速するだけでなく、安価な電力価格の実現、さらに利用者の負担軽減にもつながる。
脱炭素時代はリスクを取りながら先手先手を取ることが重要だ。世界の流れを受けて受動的に行動していては、投資家の厳しい目線に曝され、これ以上の日本の成長は見込めない。その意味でも三菱商事の後に続く企業にぜひ登場してもらいたい。