コロナ禍だからこそサンダースは支持を得た

そこで、哲学者であるジュディス・バトラー(1956〜)が2020年にコロナ禍のなかで寄稿した記事「資本主義には限界がある」を見ておきたい。彼女はジェンダー論でも有名だが、何よりアメリカを代表する現代思想家である。彼女は、コロナパンデミックが広がるなかで、貧困者にとって、この病がいかに差別を助長するかを強調している。

こうした状況において、バトラーは2020年の大統領予備選挙で、サンダースに投票した理由について、説明している。

私がカリフォルニア州の予備選挙でサンダースに投票した理由の一つは、(……)彼がウォーレンとともに、あたかも私たちが根源的な平等性に対する集団的な欲望によって命じられたかのように、私たちの世界を再想像する方法を開いたからだ。その世界では、私たちが誰であるか、どんな財政的手段をもっているかにかかわらず、生活に必要なものが、医療的ケアも含めて、等しく利用できるようになるだろう。
(バトラー「資本主義には限界がある」)

この箇所で分かるように、バトラーがサンダースを評価するのは、すべての人に、医療的なケアも含めて、必要なものを平等に利用できるようにするという「根源的な平等性(radical equality)」を求めたからである。では、この根源的な平等性は、何を示唆するのだろうか。バトラーは、端的に次のように語っている。

サンダースとウォーレンが他の可能性を提示したので、私たちは自分たち自身を他の仕方で理解するようになった。私たちは、資本主義が私たちのために設定する用語の外で考え、価値を評価し始めるかもしれないことを理解した。(同記事)

「アメリカは決して社会主義国にはならない」

これを見るかぎり、サンダースは資本主義の限界の外に人々を誘うわけである。根源的な平等を求めることは、貧困にあえぐ人、医療が十分受けられない人、住居がない人にとっては、希望を与えるものだったのである。

じっさい、2020年のある時期までは、サンダースは多くの支持を集め、民主党の大領候補になるかもしれない、という印象を与えていた。それを察知していたトランプは、ある意味ではこれを歓迎し、次のように言い放っていた。

われわれの社会に社会主義を取り入れようという声に気をつけなくてはならない。アメリカは自由と独立の上につくられた。抑圧や支配、管理の統治ではない。われわれは自由に生まれ、自由であり続ける。アメリカは決して社会主義国にはならないと今夜ここに改めて誓う。(2019年2月5日トランプ大統領一般教書演説)

バトラーは、サンダースの根源的平等性への強い主張に共感し、資本主義の外で思考することを読みとっている。対して、トランプはサンダースを社会主義者と呼び、アメリカを社会主義の国にしないように呼びかけた。