ドナルド・トランプ前大統領は、いまでもアメリカで強固な支持がある。なぜそこまで人気なのか。哲学者の岡本裕一朗さんは「『ビジネスマン』を『ビジネスパーソン』と言い換えるなど、アメリカでは年々、ポリティカル・コレクトネス(PC)が厳しくなっている。これに対しトランプは『この国にはPCなバカが多すぎる!』と公言。これに溜飲を下げた人々が支持者となっている」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、岡本裕一朗『アメリカ現代思想の教室 リベラリズムからポスト資本主義まで』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

2016年11月6日、ラスベガスではためくトランプの旗
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アメリカの底流に流れる「反知性主義」

2016年の大統領選挙でトランプが勝利するころから、「反知性主義(Anti-intellectualism)」という言葉が流行り出した。もともとは、リチャード・ホフスタッター(1916〜70)が1963年に出版した『アメリカの反知性主義』に由来した言葉である。

それによると、アメリカは建国以来「知性に対する憎悪」(反知性主義)が底流にあり、ときに応じてそれが噴出し、社会の中に深い対立を生みだすとされる。トランプが大統領選挙で勝利したのは、まさに「反知性主義」の現代的な表われだと見なされたのだ。

たしかに、民主党のオバマ大統領のときは、演説にしても記者会見にしても、理路整然とした形で行なわれていた。これは、知性主義と呼ぶこともできる態度であろう。それに比べ、トランプの場合は、感情むき出しで、話も上品ではなく、あたかも「反知性主義」に見えたかもしれない。したがって、トランプの勝利は、まさに「反知性主義の勝利」と言いたくなるだろう。