“良問”出題ランキング1位の麻布の入試は「最初の授業」

思考できる子供を伸ばす「良問」が多いのは、どこか。その観点で、学校別で「良問」偏差値ランキングを作るとなると、ダントツ1位は冒頭で紹介した麻布だと、西村さんと辻さんは口を揃える。

麻布では過去、理科でこんな“ユニーク難問”が出された。

<99年後に誕生する予定のネコ型ロボット「ドラえもん」。この「ドラえもん」がすぐれた技術で作られていても、生物として認められることはありません。それはなぜですか>(2013年・記述式)

他には、同じく理科で「コーヒー」をテーマに、焙煎やミル、ドリッパーなど、美味しいコーヒーの淹れ方を探求する問題が出された年もあれば、ウランの半減期といった、小学生には難解なテーマが投げかけられた年もある。設問の多くが字数指定のない記述問題で知識や選択肢のテクニックだけでは、点数を伸ばしにくいとされている。

「麻布の出題ポリシーはここ30年間ずっと変わっていません。試験中でありながら、まるで授業を受けているような雰囲気で、『なるほどね』と思いながら、時々ドキッとするような質問が飛んでくる。それを楽しみながら解いていける子供こそ、麻布には向いている。

つまり、先生方が『こういう子に入ってきてほしい』ということを念頭に置いた問題作りなのでしょう。そしてその傾向はますます強くなっていますね」(西村さん)

いわば、麻布の入試は、教員から生徒への「最初の授業」というわけだ。

「授業は、積み重ね。教員が話し始めた時に興味を持って取り組んでくれないと、次に進めない。その予行演習をテストで行っているイメージの最たる例が麻布なのです。例えば原子をテーマにした設問なら、リード文に原子の性質について詳しい説明があり、それを見ながら学習する。そこに答えのヒントもあるので、興味深く読んで理解しないと答えを導き出せません」(辻さん)

「Aを勉強したからAが出る」という入試ではない。受験生にとって初見の問題に、どう対応するか。これまで取り組んできた学びへの姿勢が問われているのだ。

2人の分析を、前出のドラえもん問題に当てはめると、生物として認められない理由の回答は単に「ロボットだから」ではない(問題文の内容を言い換えたにすぎないから不正解)。「漫画やキャラクターで、世の中にはもともと存在しないから」という解答も科学者視点に欠ける。

やはり設問をじっくり読めば、ヒントが書かれている。それが読み取れるか。「(ドラえもんは)生殖行為をしないから生物ではない」は正解の一例だが、「好奇心や理科的な視点を持って楽しんで授業に取り組む子に来てほしい」という思いが込められているのだろう。

麻布の理科は40点満点。多くは1問1点だが、記述の場合は、○か×かという採点ではなく、得点に0.1点~1.0点まで幅があるのではないかと見る塾関係者もいる。

そんな麻布の校風は自由闊達な雰囲気で知られている。校則もゆるく、生徒は教員に対しため口で聞いたり、新任教員にわざと議論を吹っかけて論破しようとしたり。先生と生徒が“フランクで対等”な関係だと多くの卒業生は口にする。もちろん、その根本には、生徒が教員室に頻繁に出入りするなど教員との間に信頼関係がしっかりあり、卒業しても、学校に遊びに行くOBが多いという。