栄光の「豆苗」、早実の「時計算」など、今年の“ユニーク難問”

他にユニークだったのは、栄光学園(以下「栄光」)の理科だ。

「栄光の理科はワンテーマで出題する個性派。その題材に興味を持てなかったら合格は難しいと言われています。ある年は、スパゲティ、そして今年は野菜の豆苗を使った実験がテーマでした。豆苗をほぐしてバラバラにした際、水をあげないと乾燥して軽くなります。表やグラフなども読み解きながら、どの段階で水をあげ始めたら復活するか、といった内容です」(辻さん)

※四谷大塚の模範解答:(図やグラフの)曲線より、乾燥後の重さが乾燥前の40%くらいであれば元にもどるが、それよりも軽くなると元にもどらないことが多いとわかる。したがって、土に植えた場合は、土の中の水分が完全になくなってからおよそ12時間以内であれば、ふたたび水をやると元にもどる可能性が高く、それよりも時間が経っていると元にもどりにくいと考えられる。

実験の手順として、理科の一般的な知識を総動員させつつも、さらに実生活で料理の手伝いをするなどして野菜に触れないと解きにくい問題だ。

算数はどうか。今年は時計算を出す中間一貫校が多かったという。

「灘中学や東邦大学付属東邦中学校をはじめ、難関校で見られました。中でも面白かったのが、早稲田実業学校中等部の時計算です。長針が1分間で6度動くと短針は0.5度動くので、差は5.5度ですよね。そこで最終的に5.5で割るケースが多いわけですが、それは11分の2を掛けるのと同じ。そこで出た問いが、なぜ11分の2を掛けるのか。理由を記述式で書かせました。実は7~8年前は難問揃いだったのが、5年ほど前からそれが陰をひそめ、今年初めて理由を尋ねる記述問題を出してきた。その点で新鮮に感じました」

時計
写真=iStock.com/Gaihong Dong
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同じく、最近は第1問目から難問から始まっていた開成中学の算数も、今回は数年ぶりにシンプルな計算問題が出されるなど、中高一貫校全般において、難問奇問が減ってきた印象があるという。こうした傾向は、パターン演習により“丸暗記型”をふるい落とすためにあるのでは、と二人は分析している。

「思考力のある子がほしい、丸暗記の子はいらない」

「例年、難関校の合格者の中には、知識と要領よく答えを導き出す方法は頭にあるものの、何を問われているのか、問題の本質をつかみ取れていない子が一定数います。彼らが入学すると、同じ授業を受けていても、核心を掴んでいる子とそうでない子で、差が出てきます。その差をなくすことが問題の狙いかもしれません」(辻さん)

加えて、西村さんはこう話す。

「受験生に対して『単に公式を覚え、それをただ当てはめた演習を繰り返し学習して成績を上げてきたんじゃないでしょうね? 本当の意味が分かっているんでしょうね?』という学校側からの問いかけにも見えます。“知識の丸暗記”でやり過ごそうとする生徒に手を焼いている可能性も考えられますね」(西村さん)

思考せずに問題を解こうとする“要領型”や“丸暗記型”では難関校の壁を乗り越えることはできないのだ。