匿名データの利活用は進んでいる

匿名データ(匿名加工情報)については、POSシステムをはじめ、すでに民間での利活用が大規模化しつつある。

自治体・行政も、虐待通報歴がある児童生徒等の世帯情報等の収集と分析は、個人情報保護法改正と自治体の個人情報保護条例により可能になっているが、そのデータの取り扱いについては各自治体できわめて厳格なルールが課せられている。

全国学力・学習状況調査などのデータも研究利用に制限されており、研究者も厳格な利用・保存ルールを遵守している。

今後、教育データ利活用の中で、こうした児童生徒に関する政府・自治体の収集したデータの民間事業者への利用解放まで検討される可能性もゼロではないが、その議論の仕方や情報発信において(今回の教育データ利活用ロードマップのように)つまずけば、教育政策全体への信頼を失墜させる事態にもなりかねない。

デジタル教科書やそれに付随する教員の教授履歴、児童生徒の学習履歴の活用イメージも示されているが、匿名データとして活用されるにしても、国の認可制度を経て事業参入している教科書事業者のデータ利用をどこまで許すのか、研究利用や他の民間事業者利用を可能にするのか、その目的に規制は課せられるのか、利活用ルールはどうなるのかなど、何重にも不安を感じる保護者・関係者もいるだろう。

とくに以下のようなルール整備は急がれると私は考えている。

もっとも急がれるのは個人情報保護のロードマップ

◆個人情報保護、とくに未成年である子供の個人情報保護については政府の責任主体を明確にし、厳格なルールを設定し、国民や子供・保護者にわかりやすく説明すること。すでに今回のロードマップに対しても国民からの意見募集や有識者の意見交換でも指摘されていることであり、実はもっとも急がれるのは教育データ利活用ロードマップではなく、個人情報保護ロードマップなのである。

◆とくに個人のデータの消去や管理方法など、基本的人権の保護に関するルール整備と実効力ある法制・政策(不正利用・不正アクセス等への罰則も含む)を教育データ利活用の具体化に先立って整備し、国民に発信・共有をし浸透を図ること。

◆学習産業・教育産業の利益相反ルールについては、政府や関係省庁会議への委員参画を制限を含め、明確にし厳格に運用すること。これまでには、総務省とNTTデータとの汚職事件など、デジタル政策をめぐって国民の不信を招いた経緯がある。民間事業者からデジタル庁への出向は多数あるが、すでにデジタル庁発足に際し規定されている厳格な利益相反ルール(※4)を徹底しなければ、デジタルデータ利活用に際しては今回以上の不信を招くことは必至である。教育関係の政府会議には民間事業者委員が一定数いるが、ゆがんだ委員構成で定められたルールは手続きとしてもルール自体も信頼されないことになるだろう。

※4 デジタル庁の利益相反ルールを含めたコンプライアンスの厳格性については、デジタル庁コンプライアンス委員会を参照いただきたい。

◆個人情報保護や教育データ利活用政策の具体化に際しては、国民・関係者や子供・保護者等の意見を収集し政策に反映させていくためのプラットフォームを常時開放しておくこと。デジタル庁や文科省として、丁寧な意見収集のプロセスは国民からの意見募集やアンケートによって終了していると判断せず、その後に国民・関係者の不信感を招いた経緯をデジタル庁は真摯しんしに受け止め、ロードマップに記載されているとおり、「本ロードマップは、『決定して終わり』というものではなく、今後、本ロードマップに基づき具体的な施策を関係省庁において実行していく中で、学校現場の教職員、保護者、教育委員会を含む地方公共団体、教育研究機関、民間事業者、そして何よりも、教育の一番の当事者である子供たちの意見も聴きながら、施策を推進」するべきである。

これらのことを考えると、教育データ利活用ロードマップは冒頭に下記のような、国民の安全・安心につながる基本的メッセージを記載しておくことも必要ではないだろうか?

念のため追記しておくとこれはあくまで私案である。

【図表1】教育データ利活用ロードマップの冒頭メッセージ(筆者案)
筆者作成