ヨイショやお世辞は恥ずかしいことではない

「なんだ、お世辞じゃないか」「そんなのは単なるヨイショじゃないか」と思われる方もおられるでしょう。でも、私はお世辞やヨイショが恥ずかしいことだとは全く考えていません。

理由は二つあります。

第1の理由は、お世辞やヨイショの本質は相手と問題意識を共有していることを伝える点にあるからです。

私が言うお世辞やヨイショは、心にもないお追従を言ったり相手を過剰におだてたりするような卑屈なことではありません。

自分の考えと相手の考えの共通点や親和性のある点を見つけ出して、自分もその問題意識を共有しているということを伝え、肯定感を持ってもらうということなのです。

だから、私にとってお世辞とヨイショの対象は先輩や目上の人間だけではありませんでした。部下や後輩に対しても、仕事や組織管理の上で必要があればためらいなく同じように接していました。

手を叩く幸せな多様なビジネスマン
写真=iStock.com/fizkes
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第2の理由は、効果的に場を和ませることができるからです。

言葉遣いの工夫一つで相手の気持ちが和らいで会話が弾み、相手が自らの考えを話してくれたり、こちらの説明をよく聞いてくれたりするのなら、こんな簡単で安上がりな手段はありません。

お世辞やヨイショと決めつけず、実際に使ってみれば必ず効果を実感できるものと思います。

相手の警戒心を一瞬にして説く秘技

相手に肯定感を与えて会話の雰囲気を好転させるポジティブ・コミュニケーションの技には、「オウム返し」というものもあります。

これは、会話の中で相手の言葉を捉えて「まさに今おっしゃった点がポイントなんですよ」「まさにそこが難しいところなんですよ」とオウム返しに引用しながら話をさらに展開していくという技です。

「合いの手上手」と言ってもよいかも知れません。説明の際、相手方はわれわれのことを防衛や安全保障の実務専門家だと受け止めて、多かれ少なかれ身構えています。

そんな中で相手の言葉を引用して話すと、こちらが問題意識を共有していることが伝わり、相手の顔も立ち、警戒心が解かれ安心感が醸成されていきます。こうして打ち解けた雰囲気が出来上がれば、人は自分の考えを話しやすくなります。

これに似た手法はカウンセリングでも使われているそうです。

カウンセラーが相談者の言葉を引用しながら会話すると、相談者は自らの話を肯定されたという印象を受け、安心して心を開いていくのだそうです。

最近あるホテルのウェディングプランナーの人たちにこのエピソードを紹介したところ、「同じ経験があります」「会話の中でお客様のおっしゃることを引用すると話が弾むんです」と言われました。

プロのプランナーに自分の発言を引用しながら話されると、迷いや遠慮、ためらいなどが緩和されて安心感、肯定感がもたらされる結果、雰囲気が和むということだと思われます。